研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学術院 先進理工学部 | 教授 | 長谷部 信行 |
- 研究成果概要
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Coplanar電極を用いた気体電離箱の開発を行った。気体電離箱は、通常、放射線と検出媒体との相互作用の位置に対するパルス波高の依存性を除去するために、陽極と陰極の間にFrischグリッドを挿入する。しかしながら、グリッドは機械的な強度が弱いために製作や取り扱いが難しく、機械的振動に敏感で回路雑音が増加するなどの欠点があり、特に大面積では影響が大きい。そこで、従来型のFrish Grid型の平行平板型ガス電離箱、Grid電極を有しないCoplanar型の平行平板型ガス電離箱及びCoplanar型円筒型ガス電離箱を開発した。Coplanar電極の幾何学的形状をいろいろ変えて、得られるエネルギー分解能の違いを計測した。エネルギー分解能の達成目標としては、238U(4.21 MeV)と235U(4.40 MeV)のα線ピークを6σで分離することができることとした。即ち、78 keV (200 keV ÷ 6× 2.35 = 78 keV in FWHM)のエネルギー分解能を目標とした。
Coplanar電極とは、アノード電極上にバイアスの異なる電極(電子の収集電極CAと非収集電極NCA)を交互に形成したもので、二つの電極に誘起される電荷の差を取ることで、相互作用の位置に依存しないパルス波高を得るものである。これまでにCZT半導体検出器に適用されているが、気体電離箱での研究例は少ないため、本研究により実用化を目指す。実用化ができれば、ウランなどの核燃料物質のα放出核の散逸、地震に伴って放出されるラドンの検出、環境放射能のモニターなど広い分野での応用が可能となる。特に、大容量高密度キセノン電離箱及び波形信号のデジタル処理と組み合わせることでマイクロフォニックスを大幅に低減した信頼性の高い計測システムが構築できると期待している。
まず、アノード電極として、上述の3種類の形状で電極幅、電極間隔が異なるCoplanar電極を製作し、特性試験を実施した。その結果、正規分布状のα線の波高スペクトルが得られ、Frischグリッドと同様の効果があることを実証した。
初めに、封入したガスは、取り扱いの容易なPRガス(Ar+CH4(10%))を用いて特性を調べた。線源としては237 𝑁𝑝, 241 𝐴𝑚, 244 𝐶𝑚の3種のα線の混合線源を用いた
小型のCoplanar型電離箱を作製し, 最適な電極形状を決定する実験を実施した。3種類の小型Coplanar電極として Spiral型、Circle型、Parallel型を作成した。電極間隔は、0.5mmと1.0mmである。
得られたエネルギー分解能の結果を表1に示す。実験条件としては、Cathode電圧は -800 V、この時の Cathode-Anode間の電場は~553V/cmである。Parallel型よりもCircle型やSpiral型の方が良い分解能が得られた。
表1.電極構造の違いによるエネルギー分解能の比較
エネルギー分解能
238Np
241Am
244Cm
Parallel 0.5mm
136 keV(2.85%)
121 keV(2.20%)
126keV(2.17%)
Parallel 1.0mm
138 keV (2.88%)
113 keV(2.06%)
104 keV(1.79)
Circle 1.0 mm
107 keV(2.24%)
86 keV(1.56%)
79 keV(1.37%)
Spiral 1.0 mm
110 keV(2.31%)
92 keV(1.68%)
83 keV(1.43%)
次に、大型Spiral型において電極幅と電極間隔を変化させた実験結果について述べる。上記のSpiral型電極において, 電極幅を2mmから1mmに, 電極間隔を1mmから2mmに変更した。変更前と変更後で実験を行い, 得られたエネルギー分解能を表2に示す。この時の最適Cathode電圧は-1200V, 最適Bias電圧は100Vと120Vである。電極の線幅(2㎜→1㎜)と線間(1㎜→2㎜)を変更したときのエネルギー分解能は、244Cmの5.81MeVのα線に対して、分解能は 109 keV から74 keV に改善された。
表2.Spiral型電極版(線幅1㎜線間2㎜)の平行平板型ガス電離箱のエネルギー分解能の比較
エネルギー分解能
237Np
241Am
244Cm
Spiral電極(変更前)
129 keV (2.69%)
120 keV (2.18%)
109 keV (1.88%)
Spiral電極(変更後)
110 keV (2.32%)
102 keV (1.86%)
74 keV (1.27%)
これまでの一連の実験は、封入ガスとしてPRガスを使用したが、分解能の向上のためにW-値の小さなキセノンガスに変更した。実際には電子のドリフト速度を速くして、計数率を高めるためにCH4ガスを混入させた。その実験結果を表3に示す。この表からわかるように大幅なエネルギー分解能の改善が得られた。
表3.Spiral型電極版(線幅1㎜線間2㎜)の平行平板型ガス電離箱のエネルギー分解能の比較
エネルギー分解能
237Np
241Am
244Cm
Ar+CH4(10%)
110 keV (2.32%)
102 keV (1.86%)
74 keV (1.27%)
Xe+CH4(0.66%)
76 keV (1.59%)
69 keV (1.25%)
59 keV (1.0%)
大型の平行平板型キセノン電離箱の開発として、目標の分解能を達成することができた。自然界に放出される可能性のあるα線放射体を識別することが可能な分解能を得ることができた。振動に強いことからラドンを計測することによる地震予知などの計測として外部に設置する環境モニターとして使用することができる。更に大きな振動が起きたときは、現在進めているキセノンガス電離箱の波形信号のデジタル処理により対応できるものと考えている。