表題番号:2016B-302 日付:2017/04/08
研究課題日韓陶芸技法(施文具・回転図章)の伝播に関する調査・研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 佐々木 幹雄
研究成果概要


 本研究は日本や韓国に見られる印花象嵌技法の道具の一つである回転図章を取り上げ、日韓での広がり、日韓における系譜などを追究したものである。

 回転図章とは、古代メソポタミアの円筒印章にも似て、円筒や円盤の曲面に一周するように文様を刻み、平面端部の中心を穿孔し、軸棒を通し、添え木を当てて回転できるようにした施文具である。印判(ハンコ)を一回一回押すよりも、文様のずれもなく、一定した力で安定的、しかも短時間で施文ができる。回転図章は各国の陶芸解説書にも「ローラー」として紹介され、決して珍しい道具ではない。

現在、韓国の窯場で、この回転図章が確認されたのは慶尚南道金海市進礼面と慶尚北道聞慶邑の陶芸郷の2か所だけである。進礼、聞慶ともに日本人陶芸家により1970年代半ばに伝えられた技術であることが確認されている。進礼に伝播した技術は栃木県益子の1軒の窯元(佐久間藤太郎窯)にだけ伝えられていた技法であり、益子でもメインとして使われている施文具ではない。進礼に伝えられた技術はその村の過半の窯屋で使われているが、聞慶では日本人陶芸家が伝えた窯屋とその分家の2軒でしかない。

今回の調査では、このほか、利川、驪州などの窯屋を尋ねたが、回転図章を使っている窯屋はなかった。日本でも笠間、京都(清水、京焼)、鹿児島(薩摩焼)、沖縄(壺屋焼)などを尋ねたが、京都、清水の2軒で確認できただけで、圧倒的に使っていない窯屋が多かった。益子の回転図章は主文様に近い文様を刻む印花で、金海進礼のスタイルもこれに似るが、京都の2軒は地文、背景文として軽く、部分的に施すもので、決してそれだけでは主文様になることはないと推測された。

調査件数が極めて少ないが、回転図章は技法としては知られているものの、実際に行っている窯屋は極めて少ないということが分かった。そうした中、韓国の2例は日本人が伝えたということとともに、その一つ進礼での拡散度(普及率)の高さは極めて特異である。今後のさらなる調査が必要になろう。