表題番号:2016B-163 日付:2017/04/07
研究課題鎖状ポリケチド中分子の効率的合成法の開発と中分子天然物の全合成研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 先進理工学部 准教授 細川 誠二郎
研究成果概要

本研究では新型遠隔不斉誘導反応(ポリアセテート型不斉素子とアセテート‐プロピオネート混合型不斉素子)の開発研究と天然物の合成研究を並行して行った。

新型遠隔不斉誘導反応の研究においては、ポリアセテート型ビニロガス向山アルドール反応とアセテート‐プロピオネート混合型ビニロガス向山アルドール反応をそれぞれ開発することに成功した。不斉素子ポリアセテート型不斉素子としては、L‐バリン由来の5位に2つのフェニル基を有するオキサゾリドン型不斉補助基とt-ブチルジフェニルシリル基が付いたビニルケテンシリル-N,O-アセタールが良い選択性を発現することを見出した。また、アセテート‐プロピオネート混合型不斉素子としては、L‐バリン由来の5位に2つのフェニル基を有するオキサゾリドン型不斉補助基とt-ブチルジフェニルシリル基が付いたビニルケテンシリル-N,O-アセタールが高い立体選択性を発現し、γ位のメチル基とδ位のシロキシ基がアンチの関係にある化合物を与えた。どちらの反応も生成物は水酸基がt-ブチルジフェニルシリル基で保護された化合物が得られており、本反応は多段階合成に適した反応であることが示された。また、この反応ではルイス酸として塩化スズ(IV)を用いた際に高い立体選択性を発現するが、これは塩化スズ(IV)がシリルジエノールエーテルの異性化を起こし、異性化したビニルケテンシリル-N,O-アセタールの方が反応性が高いためであることが解った。塩化スズ(IV)がジエンの異性化を起こすことが示されたのはこの反応が初めてである。

さらに、アセテート‐プロピオネート混合型不斉素子としてL‐バリン由来の5位に2つのメチル基を有するオキサゾリドン型不斉補助基とt-ブチルジメチルシリル基が付いたビニルケテンシリル-N,O-アセタールを用いてTMSOTf存在下にてアセタールとのビニロガス向山アルドール反応を行ったところ、γ位のメチル基とδ位のアルコキシ基がシンの関係にある化合物を与えた。先述の反応と立体化学が異なるのはアルコキシ基の部分である。これにより、シン体とアンチ体を作り分けることに成功した。

一方、中分子天然物の全合成研究においては、アミドとポリケチドの複合構造を持つナンノシスチンAXのアミド部とポリケチド部をそれぞれ合成することに成功した。また、多様なポリケチド構造を有するアフラスタチンAの全合成研究では、すべての部分構造の合成を達成しており、各セグメントを接続して全合成を目指す段階となっている。また、立体化学が未解明のポエシラストリンCの合成研究では、C57-C65部の立体選択的合成法を確立し、この部分の両エナンチオマーを合成した。