表題番号:2016B-116 日付:2017/04/08
研究課題金属ガラス液体中の拡散係数測定によるガラス形成機構解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 基幹理工学部 教授 鈴木 進補
研究成果概要

金属ガラスは,凝固時の冷却速度が10K/s程度と遅い場合においてもガラス化する金属であり,特異な性質を示す.金属ガラスの合金設計のため,ガラス化メカニズムの研究が盛んになされてきたが,未だに未解明な点が多い.研究代表者らは,過冷却液体における拡散係数がガラス化に大きな影響を与えると考えた.しかしながら,過冷却液体は,非平衡状態であるため,測定中の結晶化により取り扱いが困難である.そこで,本研究では,その場で濃度測定を行える蛍光X線を用いた拡散係数測定装置の有効性の検討を目的とした.開発した装置により,液相状態の低融点合金SnBiBi濃度を液体状態で測定し,本方法の有効性を検証し,液相表面を覆う分析窓が分析の精度に与える影響を検討した.

遮蔽ボックス内に,マントルヒーターとX線源および検出器を設置した.Sn57Bi43をるつぼに入れ,上部にグラファイトまたは石英ガラスの分析窓を置き,マントルヒーターで443Kに加熱し,溶解した.X線源と液体金属表面からの距離を31.5mmとし,検出時間180s10回の繰返し測定を行った.比較のため,上記合金のBi濃度を固体状態でICP-OESにより測定した.

エネルギー域10keV以上ではグラファイト窓・石英窓共に明確な Sn,Biのピークを検出できた.BiLα線の再現精度を示す変動係数CVは,分析窓がない場合は0.92%と算出されたが,分析窓を使用した場合は,1.0~2.5%と大きくなった.検出時間を長くした結果,グラファイト窓・石英窓共にCV1.15%以下に改善できた.再現精度の評価のために測定したICP-OESCV1.3%以下であったことを考慮すると十分な精度であるといえる.以上よりグラファイト窓,石英窓を使用時に,10KeV以上のエネルギー域ではICP-OESと同程度の精度で蛍光X線分析をすることが可能であることを明らかにした.本測定方法は,金属ガラス液体中の拡散係数測定における濃度分布のその場測定にも適用できると期待できる.