表題番号:2015S-020 日付:2016/04/11
研究課題『瑜伽師地論』「本地分」と「摂決択分」の文献学的比較研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 山部 能宜
研究成果概要

 今回は『瑜伽師地論』の「本地分」から「摂決択分」に至る形成過程のなかで、どのようにして瑜伽行派固有の概念である「アーラヤ識説」が導入されたかに焦点を絞って研究を進めた。

 シュミットハウゼン教授の大著Ālayavijñānaにおいて、教授は『瑜伽師地論』「本地分」の「三摩呬多地」の滅尽定に関する一節を、アーラヤ識説導入の本来の文脈を示す「最初の一節」として重視するのであるが、私は「摂決択分」冒頭のアーラヤ識説存在の八論証、特にその第一、第六、第八論証を重視して、そこで述べられるアーラヤ識による身体維持の問題と身体的感受の問題が、アーラヤ識説導入の背後にあったのではないかと考えている。私見によれば、アーラヤ識説は身心双方の基盤としてそれ等双方の状態と密接な相関関係にあり、従って禅定の実践によって身心が麁重から軽安の状態に転換するとき、その転換はアーラヤ識自体の転換に支えられているのである。