表題番号:2015K-324 日付:2016/04/11
研究課題マルキ・ド・サドのギュスターヴ・フローベルに対する影響 -初期作品を中心に-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 中野 茂
研究成果概要
  ギュスターヴ・フロベールは18世紀というパラダイムの中で思考し執筆した作家であったにもかかわらず、従来のフランス文学史の中では19世紀文学の枠の中から(「近代小説を完成させた」)、あるいは20世紀文学への影響(「現代小説の源流をなす」)という観点からもっぱら論じられてきた。そのため報告者は2009年よりフロベールと18世紀文学との関係性についての研究を開始し、ヴォルテールやベルナルダン・ド・サン=ピエールがフロベールに与えた影響、さらにはサドの作品がフロベールの青年期に与えた影響を解明してきた。
  今回の特定課題研究において、報告者はサド作品の生涯にわたってのフロベールに対する影響、とりわけ創作姿勢や世界観に対する射程を、先行研究はもちろんのこと、フロベールの書簡集、創作ノート(『カルネ』)などにもとづき解明した。
  当時の社会状況を反映して、フロベールの作品ではサド作品の影響はほぼ隠ぺいされているが、友人への手紙の中ではサドの作中人物の名前が頻繁に現れる。それゆえ今回の特定課題研究においては、書簡の中で言及される作中人物群というサドの痕跡をたどり、さらにはサド論が展開されている書簡集や創作ノート(『カルネ』)を紐解くことで、フロベールとサドの思想の接点を探った。
  今後はヴォルテール、ベルナルダン・ド・サン=ピエール、サドをのぞけば、フロベールに最も大きな影響を与えた作家・思想家ルソーとの影響関係を解き明かす必要があるであろう。