表題番号:2015K-092 日付:2016/04/10
研究課題質量分析による血球特異的抗体の抗原分子の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 加藤 尚志
(連携研究者) 早稲田大学 教育・総合科学学術院(Faculty of Education and Integrated Arts and Sciences, Waseda University) 助手(Research Associate) 谷崎祐太(Yuta Tanizaki)
研究成果概要

脊椎動物の血液には多種多様の血球が存在し,これらの血球の形態や細胞腫には多様性が見いだされる。例えば哺乳動物は,無核赤血球,白血球,無核血小板をもつ。しかし魚類,両生類,爬虫類,鳥類は,赤血球は有核であり,小型細胞の血小板のかわりに有核栓球をもつ。このような血球あるいは血球産生(造血)の仕組みの違いは,脊椎動物の進化を考察する上で極めて重要な指標になると考えられる。ヒトやマウスの細胞の種類や性質を調べるためには,細胞発現蛋白質を特異的に認識する抗体が作出されて市販され,免疫染色によるフローサイトメトリーや組織染色が一般に普及している。あるいは全自動血算装置が市販されており機会計測による鑑別と計数が可能である。また,ゲノム情報を活用して分取した細胞に特異的に発現する遺伝子も容易に同定可能である。ところがヒトやマウス以外の動物の血球鑑別では利用可能な特異抗体は殆ど存在せず,免疫染色の適用はできず,機会計測法も利用できずにいる。我々はアフリカツメガエル,ネッタイツメガエル,メダカを対象に造血制御解析の新しいモデル動物確立を展開してきた(現在遂行中の科学研究費課題)。本研究では,表現型となる遺伝子が未知の動物血球に対して,その血球そのものを免疫抗原としてマウスに免疫(細胞免疫)してモノクローナル抗体を作出し,その未知抗原分子を同定する手法の開発を展開した。抗体の抗原分子決定法には,ペプチドオーバーラップ法,発現クローニング法など複数の選択肢がある。本研究では,我々が得意とするショットガン質量分析法(LC-MS/MS)を選択した。そして次の1)~5)の手順にて分析を進めた。1)抗体が認識する抗原細胞と抗体とを結合させる,2)両者をビーズ破砕する。3)Protein Gビーズによる免疫沈降法により,抗原抗体複合体を回収する,4)核酸・脂質除去後のトリプシン消化部分ペプチド群を質量分析へ進める,5)in silico解析し,抗原を同定する。このプロトコルでは界面活性剤の使用の有無,ビーズ破砕の条件,抗原抗体複合体の回収方法などについて,かなり厳密な最適化が必要であった。他にも細胞膜分子の糖鎖をビオチン化し,抗体が認識するビオチン化分子を濃縮後,同様の手順で質量分析し抗原分子を同定するなどの検討も必要だとおもわれた。本年度では,モデル実験によって再現性あるモノクローナル抗体の抗原分子同定までは至らずにいる。しかし細胞の前処理や蛋白質分子調製に関して,最適化に至る課題を洗い出すことができたため,どの研究室でも実施可能な標準手法の確立に向けて努力したい。