表題番号:2015B-492 日付:2016/04/04
研究課題韓国の醸造・発酵陶器である甕器の通気性に関する実験考古学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 佐々木 幹雄
研究成果概要
本研究は、韓国の甕器が「息をする」といわれる理由、すなわち甕器の「通気性」について、焼成温度、焼成焔、素地から考えたものである。
 現在、韓国各地の多くの甕器業者は甕器を、通常の施釉陶器を焼く温度より低い1000℃~1200℃の間で焼いている。その理由は1200℃以上に温度を上げると、素地が焼締まり、通気性が失われる、耐火度の低い素地では溶融し、形が崩れてしまうから、という。1000℃~1200℃と幅があるのは個々の素地の焼結温度に差があるためと思われる。
 通気性が生まれるいま一つの理由は焼成焔と関係する。韓国の各地の甕器業者によると、甕器は還元焔で焼くと通気性が悪くなるので、酸化焔で焼く、という。還元焔では、素地に含まれる酸素が奪われ、微妙に縮み、通気性が失われるためと思われる。
 素地の粗・精との関係においては、甕器に使う粘土と一般的な施釉陶器の粘土の成分の違いを沈殿法で観察した。その結果、施釉陶器の素地は均一な沈殿相を示すのに対し、甕器の場合は下に粗い粒子が溜まり、素地が2層に分かれることが観察された。この素地の粗さが甕器の通気性を生む理由の一つと考えられる。
 以上のことから甕器の通気性は、まずは素地の粗さ、酸化焔焼成、そして低い焼成温度により、得られることが推測された。
甕器を焼く窯の構造も通気性に関係する、と考え、京畿道洪城郡葛山面東星里にある胴木間の焚口が焼成部と直角に曲がる独特の形をした甕器窯を訪ねたところ、直角に曲がるのは黄海に近いこの地域特有の海風を避けるためだ、ということが確認された。しかし、隣の甕器業者の窯は通例の型であったため、焚口が曲がる窯はこの地域共通のものでも、また甕器特有なものでもないことが確認された。