表題番号:2014B-364 日付:2015/04/11
研究課題在日外資系企業とローカル事業環境のリンケージに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 社会科学部 教授 長谷川 信次
研究成果概要
 多国籍企業の強みは、グローバルな企業内ネットワークで資源を共通利用できるだけでなく、各国の子会社を通じてローカルな事業環境との間に社外ネットワークを展開して、新たな資源を獲得する能力を併せ持つ点にある。このことは、受入国経済にとっても子会社を結節点として、多国籍企業がもつ資源や能力へのアクセスが可能となることを意味している。こうした多国籍企業の海外子会社とローカル環境との間のリンケージのメカニズムを、在日外資系企業を対象に解明することが、本研究の目的であった。
 本研究では、大規模質問票調査により得られたデータのSEM解析を通じて、労働市場を介した組織間人材モビリティと日本の市場特性への適応行動の視点から、在日外資系企業と日本のローカルな事業環境との間のリンケージの形成パターンを明らかにするとともに、それが在日外資系企業の子会社役割にどのような影響を与えるかを明らかにした。それによると、在日子会社の販売活動に対しては、(1)グローバルな一般スキルをもつ人材の採用が重視されない、(2)日本特殊的な一般スキルをもつ人材の獲得が、採用後のトレーニングを通じて子会社特殊的スキルの向上、さらには多国籍企業特殊的スキルの向上に貢献する、(3)これらスキル形成を通じた子会社能力の向上は、多国籍企業特殊的資産の活用型子会社役割と強化型子会社役割の双方にプラスの影響を及ぼす、(4)日本の市場特性は多国籍企業特殊的資産の活用型子会社役割にはプラスの影響を及ぼすものの、資産強化型役割には影響しない、(5)日本の市場特性は子会社特殊的スキルの形成を通じて間接的には両タイプの子会社役割に影響する、ことが明らかとなった。他方、在日子会社の生産・R&D活動においては、販売活動とは異なり、グローバルな一般スキルをもつ人材採用が多国籍企業に特殊的なグローバル・スキルの形成を促し、多国籍企業特殊的資産の活用型子会社役割をよりいっそう高めるのに対し、日本市場特性はいかなる影響も及ぼさないことが明らかとなった。販売活動と製造・R&D活動との違いは、川下活動になるほどローカル環境への適応が重要となること、また製造・R&D活動については日本の立地優位性が近隣アジアと比べて低下しているため日本の市場特性が影響をもたないと解釈することができよう。
 上述の解析結果から、以下に指摘するような興味深い含意が導かれた。(1)在日外資系企業の人材採用において、グローバルに移転可能な一般スキルが過大評価されすぎたのに対し、日本に特殊的な一般スキルは過小評価されすぎた、(2)日本の労働市場および日本的人的資源管理に関わる「神話」を見直す必要性がある、(3)製造やR&D拠点をもつ外資系企業を誘致する上で、これまで強調されてきたように日本の投資環境を整備するよりは、日本に特殊的な一般スキルをもつ人材の採用が可能となるように労働市場を整備するほうが好ましい政策である、(4)近隣アジア諸国の台頭を考慮すると、在日外資系企業がみずからの能力を高めるだけでなく、本社のアテンションを引き出す努力がますます重要となる、などである。