表題番号:2014B-345 日付:2015/04/10
研究課題情報理論的アプローチによる合意形成過程解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 大学院情報生産システム研究科 教授 吉江 修
研究成果概要
さまざまな意見が交わされ次第にひとつの合意点に達していくという合意形成過程を研究対象とする。そこでは、ある発言内容に対してレスポンスがあり、これが繰り返される。どの発言が全体に大きな影響を与えたか、各人の他の意見に対する支持状態がある発言によってどのように変化したかを、ベイズ推定を用いて解析するための工学的モデルをすでに提案した。本年度は、発言者が発する音声情報から感情抽出を行い、支持状態解析の精度を向上させる手法を、実際に特定のロボット上で動作するソフトウェアモジュールとして実現することを目標に研究を進めた。議論で述べられた発言の集合をCとすると、議論への参加者それぞれについて、支持する発言の組み合わせはCのべき集合で表される。すなわち、ある人の議論中に現れる発言に対する支持状態は、Cのべき集合の各要素に確率を付した表(テーブル)とみなすことができる。これより、合意形成過程の工学的解析を、議論中に現れる発言内容を観測し、この確率を更新して、各参加者の支持状態を推定することであると定義した。ここで、発言とは「ある支持状態のもとで対象発言に対して「レスポンス」(肯定的、否定的あるいは不明)を返し、つぎの支持状態へと遷移すること」とすると、音声情報としての「レスポンス」に含まれる話者の情動情報を利用することが考えられる。議論の収束具合は、情報理論でよく知られるエントロピーを求めることにより測ることができる。音声情報から話者の情動(喜び、恐れ、中立、怒り、悲しみ、嫌悪)認識を行う手法はすでに提案されているが、我々の過去の研究によれば、このような話者の情動情報と発言の極性との間には深い相関があることが示されている。このことから、発言があるたびに支持状態の確率を更新することが可能となる。本モデルおよび支持状態推定手法を人間とロボットのインタラクションを通じて評価を行った結果、つぎのことがわかった。(1)人間複数人とロボット1体のインタラクションの場合、1:1のインタラクションの単なる集合とみなせる場合においては、精度よく支持状態が推定できる。(2)その場合でも、一定量の発言ボリュームが必要である。(3)ベイズ推定をベースとする支持状態推定手法では、更新(収束)速度に問題がある。(4)人間複数人がときには同時に重なりをもって発言するようなケースにはまだ対応できない。(5)言語、音声情報以外の情報にも注目して多人数インタラクションに取り組むことが有望である。今後、主に(3)(4)への対処法について検討していく。