表題番号:2014B-221 日付:2015/04/20
研究課題クラウド環境での多言語仏教辞書サービスを利用した各国デジタル化諸異本の横断的活用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 菱山 玲子
研究成果概要

クラウドコンピューティング環境の進展を受けて,インターネット上に多様なサービス資源が提供されつつある.なかでも各種の言語資源サービス・翻訳サービスは,それまで各国プロジェクトで構築されてきた多様な情報空間の相互接続を支援し,言語的・文化的に特徴あるサービス空間を構成することができる.

人文情報学の研究分野において,仏教文化の基底をなす経典をはじめとする古典テキストはこれまで,各国でデジタル化された後アーカイブとして整備され,データベース化が進展し研究者による利用環境が整いつつある.これらのアーカイブされたテキストは現状では各国で独立に運用されており,異本・写本に焦点を当てた比較文献学など文献間のデータ比較を伴う学問的側面からの要請に対しては十分な貢献を果たすことが難しい状況にある.そこで本研究では,クラウドコンピューティング環境でアーカイブされた仏教経典情報を横断的かつ相互利用可能なサービス空間として構成することを提案した.具体的には,各国でデジタル化されている同一経典テキストの異本・写本に含まれ,かつ,本来であれば一致しているテキスト箇所を推定し,これらを同一と見做すことで,比較文献学としての異本・写本比較の支援サービスを構成することとした.

具体的な方法としてはまず,空間を言語グリッド基盤(Language Grid)上において仏教専門用語に関する翻訳辞書サービスを模擬的に構築した.この翻訳辞書サービスを呼び出し,各国語で現存する仏教経典アーカイブの異本及び写本における共通部分の推定と抽出を行った後,相互に同一箇所を同定できるワンストップサービスを構成とした.その際,翻訳辞書サービスの前処理として,異本及び写本における共通部分を推定し抽出するために編集距離アルゴリズムを適用した.これにより,異本及び写本における共通部分の同定時において,異本・写本間の一致箇所が明らかとなり,文献間の比較に役立つことが明らかとなった.これにより,各国でアーカイブされた異本・写本の相互利用性向上の実現に見通しを得ることもできた.なお,本研究は,デジタルアーカイブと人文情報学に関する国際会議(査読付)に採択され,研究成果を発信した.