表題番号:2013B-273 日付:2014/04/04
研究課題アフリカの「住民主体の自然保護」実現に向けた観光産業の地方分権化モデルの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 平山郁夫記念ボランティアセンター 助教 岩井 雪乃
研究成果概要
本研究の調査地は、タンザニアのセレンゲティ国立公園に隣接するイコマ地域である。ここでは、観光の目玉であるアフリカゾウが害獣化して農作物をあらす被害が起こっている。この地域において、「観光の地方分権化」がどのように機能しているか、あるいは問題を引き起こしているかを明らかにするのが、本研究の目的である。
 イコマ地域には、地域住民が管理する自然保護区「野生動物管理地域」(Wildlife Management Area:WMA)が2007年に設置された。2014年1-2月に実施した調査では、地域に二つの問題が出ていることが明らかになった。
 第一は、WMAに参加する5つの村のうち3村で村の分割案が出ていることである。この新村の境界線とWMAからの観光収入の分配をめぐって、対立と混乱が生じていた。境界線の引き方によっては、新村になったときにWMAに接しないため、利益分配を受けられない村がでてしまうのである。境界を接していなくても、旧村民には等しく利益が受けられるようにするべく、分配額をめぐって激しい交渉がおこなわれていた。
 第二の問題は、「WMA参加村」と「WMAに隣接しておらず参加できない村」の間の格差である。WMAに土地を提供して参加している村は5つのみであり、その一方で、国立公園に隣接してゾウの農作物被害にあっている村は、セレンゲティ県だけでも25村ある。つまり、WMAに参加していない20村は、ゾウの被害を受けるだけで、観光の恩恵は受けられないのである。
 アフリカゾウが誰ものか?と問えば、地域・国・地球の人類すべて、とさまざまなレベルでの解釈が可能である。しかし、そこからの被害を受けるのは地元の地域住民であり、恩恵を受けるのは遠く離れて生活する欧米の観光業者であり観光客である。この不公正な状況を是正するはずの「観光の地方分権化」であるが、まだその仕組みは未熟であり、住民が納得する仕組みにはなっていないといえる。