表題番号:2013B-256 日付:2014/04/03
研究課題複数言語環境で成長する子どもの日本語能力と教材開発に関する日本語教育方法の構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 川上 郁雄
(連携研究者) 日本語研究教育センター 准教授 尾関 史
(連携研究者) オープン教育センター 助教 太田 裕子
研究成果概要
 本研究は、幼少期より複数言語環境で成長する子どもの日本語能力の実態を把握し、その実態にあった日本語教育教材の開発と日本語教育の方法について研究を行うことを目的としている。本年度は、幼少期より複数言語環境で成長する子どもの日本語能力の実態を把握するために、日本国内では三重県鈴鹿市における実態調査をもとに教材開発を行った。鈴鹿市教育委員会と調査代表者の所属する本学大学院日本語教育研究科は6年前より協定を結び、調査代表者が開発した「JSLバンドスケール」を使用して日本語を第二言語として学ぶ子ども(以下、JSL児童生徒)の日本語能力の把握を行い、かつ個々の子どもの日本語能力の判定結果を継続的に集約し、かつ分析を行ってきた。その結果に基づき、本大学において、これらの子どもたちに向けた教材開発を行った。さらに、2013年8月には、開発に関わった本学大学院日本語教育研究科の調査代表者、連携研究者、修士課程院生とともに現地を訪問し、教育委員会および市内の教員と教材開発についての協議を行い、大きな成果を上げた。その後も、本学において同様の教材開発を継続している。
 また、近年、日本国外において幼少期より複数言語環境で成長する子どもで、日本語を学ぶ子どもが増加している。そのため、シンガポール、マレーシア、オーストラリアでの子どもたちの実態を調査し、関係者と協議を行った。シンガポールでは日本人学校(小学部、中学部)と日本語補習授業校、マレーシアではジョホールの日本人学校、またシドニーでは土曜校(日本語補習授業校)を訪ね、授業の様子を見学するとともに子どもたちの日本語に関する課題等について聞き取り調査を行った。その結果、どの学校においても、国際結婚した両親を持つ子どもや日本国外での生活が長くなっているため日本語能力が弱くなっている子どもがいることが判明した。日本人学校では優秀な児童生徒が多かったが、補習授業校では日本語能力が低いために当該学年の教科書を読んだり理解したりすることが困難な子どもがいた。では、そのような子どもに対してどのような日本語教育を実施することが可能なのか、またその場合の日本語教育の教材はどのようなものがよいのか、さらに複数言語環境で成長する子どもの場合、複言語能力を持つことになるが、その場合の日本語教育は何をめざして行われるのか、またその理念は何かということについても関係者と協議をすることができた。本研究の成果は、日本国内のJSL児童生徒の課題と日本国外で日本語を学ぶ子どもたちが、「ことばの教育」という意味で共通の課題を有しており、その解決には日本語能力の把握を行い、その実態にそくした日本語教育教材の開発と日本語教育方法の開発が必要であること、さらにこの課題が幼少期より複数言語環境で成長する子どもにとって日本国内外で重要な研究課題であり、子どもたちの実態を見たとき喫緊の課題であることを関係者と共有できたことである。