表題番号:2013B-254 日付:2014/04/11
研究課題ICTライフライン構築のための政策研究―経済効率性と持続可能性―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 三友 仁志
研究成果概要
本研究では、災害時に機能し、国民の安全・安心に貢献しうるライフラインとしてのICT(Information and Communications Technology)サービスについて、利用者便益と費用負担の視点から、その構築および継続的提供に資する政策的処方箋を導出し、新しいユニバーサルサービス実現に向けた提言を行うことを目的とした。
ライフラインとして機能するICT サービスが、平時におけるサービスを前提としたユニバーサルサービスと比較し、どのように異なるかについて分析したところ、災害時に機能しうるICTライフラインの構成要件として以下の2 点が重要であった。
① 頑健性 代替手段の確保可能性においてインフラに求められる水準
② 有用性 災害時の救助及び支援、災害後の生活において求められるサービス内容

そのため、本助成費による研究では、これらのうち、後者について重点的に研究を行った。より具体的には、2011年3月11日に起きた東日本大震災後の復旧・復興活動において、テレビを中心とするメディアと情報通信技術(ICT)とがどのような役割を果たしたかについて、民間放送連盟研究所との共同調査に基づきデータを収集し統計的な解析を行った結果、以下の2点が明らかとなった。

1)オンラインによる市民参加が、メディアおよびICTと、ソーシャル・キャピタルと呼ばれる無形の人間関係資本との間の関係から惹起されていることが示される。すなわち、メディアによって人々の震災に対する関心が引き出されると同時に、ICTがその関心を表現するための有効な手段を提供し、オンラインによる市民参加の水準を上げ、結果的にオフラインのソーシャル・キャピタルの形成に正の効果をもたらす。統計的な分析を通じて、SNSのようなICTおよびテレビを代表とするメディアはオンラインによる市民参加を促進し、その結果、ボランティアなどのオフラインの市民参加に正の効果を与えることが示された。伝統的なメディアであるTVと、新しいコミュニケーション手段であるSNSなどの活用の重要性が示唆された。
2)メディア情報が人々に如何に受容されて実際の行動に影響を与えたか、更に今後の行動意図に如何に影響を与えるかについて、特にこれらの相関関係を分析モデルに、メディア利用度やメディア信頼度、震災ダメージといった要因を加えて、メディア情報の培養効果に焦点を当てて検討する。分析の結果、メディア利用度、メディア信頼度、震災ダメージは、メディア情報に培養効果をもたらす要因であることがわかった。メディア利用度は主流効果で、震災ダメージは共鳴効果で、メディア情報が培養されて人々に影響を与えていると考えられる。なお、共分散構造分析の結果から、復興時に人々が認知したメディア情報は「絆」、「心配」、「不安」で構成されており、このメディア情報は実際行動と今後の行動意図に正の関係で影響を与えることがわかった。

研究成果については、すでに国内外の学会で報告を行っており、関連学術誌に投稿している。今後は、先進的な自治体と共同で、災害時の安心・安全の確保に高い効果があるビッグデータを用いたICT サービスの活用を念頭に、個人情報保護などの法的側面についても問題点を検討し、合意形成に向けた政策提言を行いたい。