表題番号:2013B-252 日付:2014/04/04
研究課題活かされる国際制度ー「政治的意思」の視点から
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 篠原 初枝
研究成果概要
この課題を探求するに当たり、二つの大きな論点を考察した。それはいかに「制度」と「政治的意思」を定義するかである。
制度については、国際関係においては、大別するのならば国際組織と法という二つが考えられる。国際組織は、たとえば国際連盟・国際連合などの普遍的政府間国際組織、あるいはEUなどの地域的な政府間組織もある。しかし、当研究において筆者があえて探求を深めたかったのは、そのような組織ではなく、制度としての法規範、具体的には国際法という制度である。国際社会に、絶対的な権力を有する中心的な政府が存在しないため、国際法は国家の遵守において自主性に頼る制度である。そのような法規範がいかに形成され継続されるのか、また、なぜある法規範体系はより遵守されるのに対し、他の法規範は度重なる「違反」を問われるのか、それがこの研究の根本をなす命題である。
国際法規範という「制度」について、ではどのような政治的意思がはたらくのか、このような政治的意思は、政治家や外交官という政策に携わるものによってもたらされるのか。それが2番目の論点である。すなわち、政治的意思の発露にあたるアクターの問題である。政治家や官僚、外交官などの政策決定者による「政治的意思」の表明はむろん、国際法規反の形成やその発展に不可欠な要件である。国際連盟規約が、アメリカ大統領ウィルソンの指導によって作成されたように、政策決定者の役割は大きい。しかしながら、筆者があえて問題として論じたいのは、国際法規反をささえる規範意識としての「政治的意思」なのであり、この場合、政治家や政策決定者の意思が重要であることはもちろんであるが、規範意識を生み出す国際法学者の役割に筆者は注目してきたのである。中心政府が存在しない国際社会において、ある国際法規範が重要である、侵犯してはならないという意識形成に、国際法学およびその解釈者、実行者である国際法学者が果たす役割は決して小さくはないのである。
より具体的なテーマとして、筆者が取り組んだのは、戦間期に国際法改革を叫んだアメリカ国際法学者がどのように戦後その議論を変遷させていったかである。戦間期に「戦争違法化」に取り組んだQuincy Wright, Chales Fenwick, Manley Hudson らの指導的学者が、冷戦、アメリカの超大国化という時代的文脈の中で、どのような政治的意思を有し、国際法の議論をおこなったかを検証した。きわめて、興味深かったのは、キューバ危機を境として、アメリカの帝国的な行動を擁護するような学説、すなわち政治的意思がが展開されてきたことである。このような実証的な発見は、国際法規範構築にあたり、どこまで国際法学者の政治的意思が、ナショナルな文脈を離れて展開されるのかという大きな問題につながると、あらためて考えさせられた。