表題番号:2013B-251 日付:2014/04/11
研究課題途上国におけるインクルージョンを目指す障害児教育の教員養成
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 黒田 一雄
研究成果概要
 本研究では、インクルーシブ教育をめぐるグローバルガバナンスの形成過程を歴史的に見ながら、その理念的相克を指摘し、あわせてグローバルガバナンスの課題を検討した。この論考を経て、最後にインクルーシブ教育というグローバルガバナンスのあるべき方向性を考察した。まず、インクルーシブ教育が金科玉条のようなイデオロギーとしてではなく、ローカルにおける社会的文化的伝統や教育観、障害種別の事情、個々の親の意志等に対して、十分な柔軟性をもつ政策理念として、各国政策に受け入れられることが重要である。従来、政治的・人権アプローチを主体とする国際的な宣言や条約採択による規範の提示をもって形成されたグローバルガバナンスに対し、教育・機能的アプローチのグローバルガバナンスを進展させる必要がある。それは、例えば、インクルーシブ教育の学習成果への教育的効果や費用対効果の高さを実証し、政策決定者に提示することや、成果をあげるための政策過程を仔細に検討し、ケースバイケースのグッドプラクティスを積み上げることであろう。規範を提示するだけではなく、ローカルに適合したインクルーシブ教育の導入をする努力を進めることで、現場への定着はより確実なものになっていくであろう。
 インクルーシブ教育と特殊教育との関係性の作り方にも同じことが言える。この2通りの教育の在り方を二律背反的な対立するものとして捉えるのではなく、特殊教育で培われた人材や知見を、インクルージョンを達成するために活用するようなアプローチをとることが、インクルーシブ教育の政策的実現性を高めることにつながる。さらに、インクルーシブ教育を単独の目的としたグローバルガバナンスとして展開するのではなく、他のグローバルなフレームワークの形成と融合させ、その考え方を反映させることができるかが問われている。その意味では、2015年以降の開発フレームワークやSDGsの政策目標の設定に、インクルーシブ教育の理念をいかに導入することができるか、そのために単純でありながら要点を得た指標を専門家が国際社会に提示できるか、各国においてインクルーシブ教育に関する正確な情報把握のための教育運営情報システム(EMIS)が整備されているかが重要になる。また、ポスト2015年のフレームワークだけではなく、先進国の教育政策に強い影響力を持ちつつある、PISA等の国際的学力調査や21世紀型スキルに関する国際的議論に、グローバル化する社会における多様性に向き合い、多様性を前向きに捉える教育の在り方として、インクルーシブ教育の可能性をうったえていく必要がある。教育の目的を問い直し、教育の質の向上に資する教育理念としてのインクルーシブ教育のグローバルガバナンスをいかに形成していくかが、問われている。