表題番号:2013B-247 日付:2014/04/30
研究課題世界文学としての日本のポストモダン文学
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 森田 典正
研究成果概要
 世界文学(あるいは、世界の名作の正典=キャノンという意味でとらえられることを避ける意味で「W文学」)は比較文学の発展型であるが、伝統的な比較文学の手法と大きく異なる点があるとすれば、それは各国の文学作品や作家同士を比較するのではなく、国や言語や文化の相違を超えて、幅広く、普遍的に読まれる作品の、テキスト生産、翻訳、出版、流通、受容のそれぞれのプロセスにの仕組みを検証しようとするものである。本研究においては、まず、こうした「W文学」の理論、方法論をしっかり検証してきた。「W文学」については2000年代に盛んに議論された後、一時、それが下火になり、「W文学」はすでに終わったという声さえきかれるようになったが、2010年代には、「W文学」についての研究書やアンソロジーが次々に出版されるようになった状況からも分かるとおり、ふたたび、それが注目されるようになった。しかしながら「W文学」の理論は完全に固まったものとは言い難く、本研究を一年間とおして行ってきた結果として、これからはまず理論・方法論について概括し、批判的コメントも含めて、「W文学」理論のこれまでの到達点と今後の展開についての論文を準備している。一方で本研究が採択され、研究を行ってきた実績として、科学研究費基盤研究(C)として採択をうけることができた。日本のポストモダン文学の内から村上春樹の作品のみを抽出し、そのポストモダン性を「W文学」の理論の枠内で、分析・研究しようとするのが、採択された研究の目的であり、内容である。「W文学」としての日本のポストモダン文学として、本研究の期間中は、村上春樹にとどまらず、高橋源一郎、島田雅彦、吉本ばなな等、広く、研究を行い、また、主として、これらの作家の翻訳者たちから、専門知識の提供を受けてきた。また、日本のポストモダン文学と考えられる作品の世界での出版状況を調べるとともに、その受容について、谷崎、川端、三島といった日本の伝統的な作家の海外での受容の形態や評価のされ方の、異同についても研究を行った。本年度からは、昨年度の研究成果から村上の作品に特化して、同じ研究を行う一方、また、「W文学」の研究方法の別の視点からも、研究を始めたいと考えている。