表題番号:2013B-245 日付:2014/03/25
研究課題フランス・アフリカ関係再検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 片岡 貞治
研究成果概要
今年度は、フランスに赴き、フランスとアフリカの関係に関する調査を行った。フランス・アフリカ関係に詳しいジャーナリストや学者及び政府関係者と意見交換を行った。
 現在のアフリカにおいて、フランスに匹敵する軍事的プレゼンスを誇る域外の国家は、存在しないと言える。フランスは現在、アフリカ3カ国、即ち、セネガル(350名)、ガボン(900名)、ジブチ(2000名)に軍事基地を有し、前方展開軍としてのフランス軍部隊を駐留させている。フランス軍部隊の駐留は、それら3カ国の独立後に締結した協定に基づいており、長期間にわたるものとなっている。
また、チャド(950名)、コートジボワール(450名)、マリ(2300名)、中央アフリカ(2000名)、ニジェール、カメルーン、モーリタニア、ブルキナファソには、軍事作戦用の展開軍を派遣している。2013年1月のマリと12月の中央アフリカへの軍事介入は国際社会の関心を集めたが、こうしたフランスによる直接介入は、フランス領アフリカ植民地の独立後、たびたび行われてきたことである。現在、フランスは、多国間の枠組みでの派兵も含めて約8,150名の軍事要員を海外に展開しているが、そのうち約6,000名をアフリカに派遣している 。このように、フランスによるアフリカの安全保障への関与は、他の諸国と比べて突出している。
 フランスとアフリカの関係をみていく際に、フランスと旧フランス領アフリカ諸国を中心とするフランス語圏アフリカ諸国(フランス語を公用語とするアフリカ諸国)との関係と、フランスと非フランス語圏アフリカ諸国との関係は大きく異なるということをまず指摘しておかなければならない。フランス語圏アフリカ諸国はフランスにとっての勢力圏であり、フランスがパワーを与える対象である。一方の非フランス語圏アフリカ諸国はフランスの勢力圏に対抗する存在である。シャルル・ド・ゴール(Charles De Gaulle)によるフランスの栄光の追求、フランスの国際的な大国としての地位といった対外政策の方針から、フランスは勢力圏の維持を目的とした。そこでフランスは勢力圏の維持という観点から、フランス語圏アフリカ諸国において親フランスの指導者によって安定的にネーション・ビルディングが営まれるよう対応したのである。他方でフランスは非フランス語圏アフリカ諸国に対しては、フランスの勢力圏を保護するという目的、時には勢力圏を拡大するという目的から戦略的に行動した。
 それでも、安全保障を既得価値への脅威の不在とするなら 、フランスにとってのアフリカの安全保障とは、フランスのパワーの源泉の1つと考えることのできる勢力圏であるフランス語圏アフリカ諸国の安全保障ということになるであろう。さらにすべてのフランス語圏アフリカ諸国に対してフランスは一様の関係を築いていたわけではない。安全保障に関して、フランスは防衛協定と軍事技術協力協定の2種類の2国間協定をフランス語圏アフリカ諸国との間に締結した。この2国間協定の法的枠組みに従って、アフリカ諸国軍隊の訓練、武器の供与、フランス軍の駐留、有事の際の軍事介入といった手段でフランス語圏アフリカ諸国の安全保障を担ってきた。フランスはアフリカにおいて、たとえフランスが自らの勢力圏と考えるフランス語圏アフリカ諸国においても傍若無人に振る舞ってきたわけではない。フランスの行動は、例外があるにしても、2国間協定に基づいた法的正統性を根拠にしてきた。ただしそれら2つの協定がすべてのフランス語圏アフリカ諸国との間に締結されたわけではない 。アフリカ諸国との安全保障分野に関する法的枠組みの有無がフランスの行動を左右してきたのである。
他方で、独立から60年以上が経過し、その関係は大きく変容しつつある。これまで、フランスはフランス語圏アフリカ諸国に対して、家父長的な存在として、政治、安全保障、経済様々な面でその関係を維持強化してきた。こうした関係をFrancafriqueと表現されることが多かった。今日、その力関係が逆転し、「大国」としての格を維持したいフランスがアフリカとの関係の維持の腐心せざるを得なくなってきている。経済関係でも、依然として多くのフランスの開発援助は、フランス語圏アフリカ諸国に向けられているが、今後の未開発の資源の開発などで、フランス語圏アフリカ諸国は極めて重要な存在になってきている。フランスだけではなく、他のドナー諸国もフランス語圏アフリカ諸国に関心を寄せているからである。また、フランスが積極的に推進してきたフランス語圏組織(フランコフォニ)であるが、フランコフォニの将来は、人口の減少する欧州地域のフランス語の使い手によって決められるのではなく、人口の増加するアフリカ諸国にかかっていることは明らかである。
 更に、安全保障面でも、フランスは現在、マリと中央アフリカに軍事作戦を展開しているが、この作戦の遂行には、フランス語圏アフリカ諸国のサポート、とりわけチャド軍のサポートが不可欠である。このようにフランスもフランス語圏アフリカ諸国に大いに依存しなかればならない状況に直面しているのである。今後こうした関係の変容を引き続き注視していかなければならないであろう。