表題番号:2013B-214 日付:2014/03/29
研究課題成年後見制度における意思決定支援に関する研究ー人材育成の視点からー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 岩崎 香
研究成果概要
 本研究では、成年後見人として実践している公益社団法人東京社会福祉士会権利擁護センターぱあとなあ東京の会員358名を対象としてアンケート調査を実施し、147名から有効な回答を得た(回収率41.1%)。
 回答者は社会福祉士となってから5年以上10年未満の人が多く、成年後見人養成研修を終えて権利擁護センターに登録した年数も6割が5年以上10年未満という状況である。受任している数は1名が最も多く、2.3名という人を合わせて、6割を超えている。その一方で独立開業している社会福祉士等で10名を超える方を支援している人もいる。また、そのほとんどが後見類型である。
 成年後見制度は判断能力が不十分な人をサポートする制度であり、後見人等が本人を代理する大きな権限を持っている。その反面、自己決定をできるだけ尊重することも謳われている中で、社会福祉士がどのような認識で支援しているかということを調査した。結果、行っている後見事務に関して、すべて本人に説明すべきと回答した人が42.2%、説明する必要はないという回答が32.0%であった。複数の選択肢がある場合に関しては、説明すべきという回答も必要ないという回答も同じく39.5%であった。成年被後見人の判断能力、病状、緊急性の有無等によって、判断していることが明らかとなった。
 意思決定が困難だと考えられる成年被後見人の中で、精神障害者を支援している社会福祉士に対して、財産管理と身上監護における大変さを尋ねたところ、財産管理は56.5%が、身上監護は75.8%が困難があったと回答していた。財産管理面では、経済的に困窮している人が多く、金銭の使い方に介入する際に信頼関係の構築が難しかった例などが見られた。身上監護面でも精神疾患により現実と妄想が混在している中で、成年後見人がかかわることを拒否されたり、社会との関係性の中でも親族と絶縁していたり、住居の確保や転施設・転院等に関してもスムーズにはいかない現状が報告されていた。
 障害のある人たちの意思決定を支援することは、専門職種であっても迷いや悩みを伴うものであり、成年後見人には最善の利益がどこにあるのかを本人に寄り添いながら決定していく責任が担わされている。多様な背景の中で、置かれている状況も様々であり、そうした対象者のニーズにどこまで寄り添えるのか、意志の表明自体が難しい人たちの権利をどう守っていけるのかが社会福祉実践の中でも問われている。本調査の結果を活用し、担い手の育成を今後も探求していく予定である。