表題番号:2013B-212 日付:2014/03/25
研究課題モバイル端末を思考トリガー装置とする論理的思考能力の育成方式開発とその効果実証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 永岡 慶三
研究成果概要
 本特定課題研究の目的は,複数学習者が協調して解決を目指す論理思考問題(思考パズル)をモバイルラーニングによって提供し,「創造的思考力」の評価法を開発することにある.モバイルラーニングはいつでもどこでもの「すきま学習」に特徴があるが,出力画面の情報量が限定され,多数文字の教材を勉強するのは辛い.出題が簡潔で,知的思考が大いに要求される論理思考問題(思考パズル)が適している.通信機能があることから,協調解決・創発的グループワークを重視し,その問題解決過程における回答正誤・思考時間・コミュニケーション量・議論内容から,「創造的思考力」の評価法開発を目的とした.
 教育の場では論理思考問題(思考パズル)の類は,これまで本来の学習の促進のため或いは純粋に遊びとしてとらえられて来た.しかし近年,学術的な扱いの傾向もでてきた.欧米諸国では以前よりLogical Puzzle,Lateral Thinkingなど論理思考問題は学校教育などで用いられて来た.日本でも学会としては,日本シミュレーション&ゲーミング学会や情報処理学会ゲーム情報学研究会などの存在がある.日本教育工学会にでは2010年9月に開催された第26回全国大会の課題研究「ゲーム・シミュレーションを利用した教育・学習支援」セッションが設けられたように,教育工学系領域におけるゲームの教育利用に関する研究は,2000年代半ば以降の研究論文数の増加に現れている.
 一方,モバイルラーニングは日本でも各企業がビジネスベースでLMSシステム,教材コンテンツ開発を競っている.学術の場でも国際会議Mobile Learningが毎年開催されている.日本でも既に大学や企業でeラーニングは実用されてきているが,タブレット端末のスマートフォン急激な普及によって,いっそう「いつでもどこでも」の特徴が先鋭化し,「すきま学習」の学習形態が必要となってくる.
 申請者はこれまで大学院授業において論理思考問題を扱っている.教材内容として次のように整理できる.[論理問題,哲理問題,数理問題,物理問題,心理問題,倫理問題,推理問題,発想問題,フェルミ推定].取り上げた教材の事例として2題を例として以下に示す.
【哲理問題】 財布の交換:「2人の人間が持っている財布の中身を比べ,金額が少なかった方が多かった方の財布の中身をもらう.両者の中身の平均に対し,もらえる場合は平均より多く,失う場合は平均より少ないので,どちらの人間にとってもこのゲームは有利である.これは本当か?説明してください」→哲理分野でも論じられている問題で,皆が一致する正解はほとんどない.他人に説明し納得させる回答過程の協調的な構成が議論の主題である.
【数理問題】 スプーン一杯液体の入れ替え:「AとB,二つのビーカーがあり,Aに赤インク,Bにミルクが各1リットル入っている.1ccのスプーンで,Aから赤インクをBへ移す.よく混ぜた後,BからスプーンでAへ戻す.結果,ビーカーAとビーカーBのどちらが純度が高い液体となるか?」→厳密に数式計算すれば正解に至るが,閃きがあれば簡明に解決できる.それによる解答を他人に認めさせる解説に工夫を要するため,議論が沸騰した.
 研究成果としては,以上の題材についてのオンラインテキストディスカッションを分析した報告およびそれらを授業中に実時間でデータ分析するアプリの援用について検討した報告である.