表題番号:2013B-209 日付:2014/04/07
研究課題SUMO化と脱SUMO化による神経分化制御
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 榊原 伸一
研究成果概要
中枢神経系の幹細胞(前駆細胞)は発生期から成体脳に至るまで存在し、そのニューロン産生頻度・細胞周期は、発生段階や外部環境などに依存してダイナミックに制御されている。しかし、この迅速な幹細胞の機能調節機構には不明な点も多い。我々は神経幹細胞の維持機構において、SUMO化・脱SUMO化によるタンパク分子(群)の拮抗的で動的な翻訳後修飾が重要な役割を担っていると推定している。SUMO(Small Ubiquitin-related Modifier)は標的タンパク質との結合によりその機能を修飾する事で、細胞周期進行、核-細胞質輸送、転写調節など多岐の生命現象に関わっている事が報告されている。哺乳類SUMOには3種類のアイソフォームSUMO-1, -2, -3が存在し、SUMO-2とSUMO-3は非常に高い相同性(95%)を示すサブグループを形成し、SUMO-1とは機能的相違が示唆されている。哺乳類の神経分化におけるSUMO化・脱SUMO化の役割を解明するためにSUMO-1、SUMO-2/3、およびSUMO化酵素のひとつであるUBC9の発現パターンをマウス脳の発生過程を追って詳細に解析した。胎生10日目のマウス脳胞を抗体により免疫染色した結果、SUMO-1、SUMO-2/3、UBC9はともに神経幹細胞である神経上皮の核質に発現局在が認められた。神経幹細胞におけるこれらSUMO関連分子の発現は神経幹細胞の初代培養系を用いた免疫染色により確認された。さらにwestern blot解析の結果、培養神経幹細胞のSUMO化レベルはニューロン分化に伴い低下していくことが示された。この神経前駆細胞、幹細胞におけるSUMO関連タンパク質の局在は生後から成体期にわたり持続していた。特にSUMO-2/3化は生涯に渡り神経前駆細胞において強く起こっていることが示唆された。すなわち生後1-7日においては小脳外顆粒細胞EGL、成体期の側脳室周囲のnestin陽性SVZ細胞や海馬歯状回のGFAP陽性神経前駆細胞では強いSUMO-2/3化が起きていた。一方、生後の脳発達に伴い、様々な領域ではSUMO-1とSUMO-2/3の局在の相違が顕著となる。大脳皮質では全層の分化ニューロンで高いSUMO-1局在が認められるのに対して、SUMO-2/3化のレベルは総じて低下しており、特に第4-6層のニューロンにおいてはSUMO-2/3化の顕著な低下が認められた。他の領域においてもSUMO-2/3とSUMO-1の特徴的な分布の差が認められた。例えば脳幹部においては、顔面神経核、舌下神経核などの大型の運動神経核の細胞体に顕著なSUMO-1蓄積があるのに対して、SUMO-2/3の蓄積はこれらの神経核には見られなかった。以上の詳細な組織学的な検索から、神経系前駆細胞ではSUMO-2/3化が豊富に起きており、標的タンパク質のSUMO-2/3が重要な役割を担っていることが推定された。すでに我々はプロテオーム解析により神経前駆細胞内でSUMO-2/3化されるタンパク質を同定しており、SUMO化部位を改変したミュータントタンパク質の作製を進めている。現在この変異体を神経前駆細胞など培養系に導入し、標的タンパク質の機能変化、細胞内局在の変化を解析中である。これらの解析により神経前駆細胞の維持におけるSUMO化の意義が明らかになると考えられる。