表題番号:2013B-208 日付:2014/04/11
研究課題色彩と音楽のふさわしさに着目した感性データベースとアプリケーションシステムの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 斎藤 美穂
研究成果概要
1:目的
本研究では色彩と音楽という感性情報に関して、SD法を用いたイメージ調査を行い、共通する印象軸を導出し、両方の感性情報を共通次元で表現・整理した。その結果に基づくデータベースを用意した後に、これらの結果を反映させた色彩と音楽のふさわしい組合せを提案するためのアプリケーションシステムを構築することを研究目的とした。

2:方法
実験参加者:大学生50名(男性30名 女性20名)が実験に参加した。平均年齢は、20.96(標準偏差0.92)歳であった。

刺激:楽器の音色に着目し、旋律、調、テンポは変化させず構成する楽器のみが変化する自作曲とした。楽器の種類については、「ピアノ」「金管(トランペット、トロンボーン、ホルン、チューバ)」「弦(バイオリン×2、ヴィオラ、チェロ)」「木管(フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン)」「撥弦(アコースティックギター×2、ベース)」「撥弦+ドラム」の6種類を用いた。テンポは四分音符=80、調はハ長調とした。
 
刺激提示方法:刺激の提示については、作曲ソフト(Finale2011)を使用し、音源ソフト(east west社 Symphonic Orchestra Play Edition)による再生をMP3ファイルとして保存し、PC(Mac Book Air、iTunes)よりヘッドホンで提示した。提示順は被験者ごとにランダムであった。

評価方法:7段階評定のSD法、10形容詞対(重々しい-軽やかな、明るい-暗い、にぎやかな-静かな、つめたい-あたたかい、颯爽とした-のんびりとした、物足りない-迫力がある、楽しい-つまらない、インパクトのある-インパクトのない、不快な-快適な、嫌い-好き)によって評定を行った。

3:結果
音楽に共通する印象次元を検討するにあたり、次の5項目(重々しい-軽やかな、明るい-暗い、にぎやかな-静かな、つめたい-あたたかい、嫌い-好き)を使用した。色彩のデータについては、別の課題によって得られた結果を用い、上記の5項目と対応すると考えられる(重い-軽い、明るい-暗い、騒がしい-静かな、つめたい-あたたかい、好きな-嫌いな)を用いた。色彩の刺激は11トーン(v,b,dp,lt,sf,d,dk,p,ltg,g,dkg)、無彩色および12色相(2R,4rO,6yO, 8Y,10YG,12G,14BG, 16gB,18B,20V,22P,24RP)の計24刺激であった。
色彩に関するデータは、以下の内容より抜粋
[Wakata & Saito(2012): The impression of tones and hue in gradation of practical color co-ordinate system(PCCS), International Color Association 2012 Taipei, Taiwan ,322-325]
3-1:音楽と色彩に対するクラスター分析
音楽と色彩の印象評価に対して、共通する分類傾向を検討する為にクラスター分析を行った。それぞれの印象評価の平均値を用い、平方ユークリッド距離、ward法による分析を行った結果、7クラスターが得られた。この結果から弦楽器、撥弦、楽器は類似した印象傾向を示し、さらにltgトーン、10YGと印象が類似する傾向が見られた。その他は金管、撥弦+ドラムと2R、ピアノ、木管楽器とsfトーン、6yO、24RP、8Y、4rOが同一のクラスターを構成した。
色彩における色相、トーンについては、トーンは第5クラスターに明清色、第7クラスターに暗清色によるまとまりがみられ、先述したltgトーン、sfトーン以外のクラスターに関しては音楽と同一のクラスターを構成する結果はみられなかった。一方色相については音楽と同一のクラスターを構成する刺激が多く見られた。

3-2:音楽のふさわしい組合せを提案するためのアプリケーションシステムの構築
 音楽と色彩のデータの中で共通する5項目を用いて、ユーザーが求める印象評価値を入力し、その値に最も近似する値をとる刺激として音楽、トーン、色相をそれぞれフィードバックするアプリケーションシステムを構築した。フィードバックする結果の算出にはユークリッド距離を用いた。
 システムの構築にはObjective-C言語を利用し、タッチ操作が可能な端末であるApple社のiPod4Gで動作するものとした。画面1で印象評価値を入力し、「OK」にタッチすると遷移先の画面2で評価した値に最も近似する刺激がそれぞれ表示される。この画面2では、音楽は「PLAY」ボタンで再生することが可能であり、トーン、色相についてはそれぞれタッチすることでトーンの解説が表示される画面3,色相の解説が表示される画面4のように詳細な説明を見る画面に移行する。

4:まとめ
 音楽と色彩の印象評価に基づき、ユーザーの印象に近似した刺激をフィードバックするアプリケーションシステムが構築された。今後の展望としては、システムの評価を行うと共に、アプリケーションを構成するシステムの中核となるデータベースの内容を充実させる必要がある。本研究においては音楽の要素として音色に着目したが、今後はさらに他の要素も取り入れることで、より精度を向上させることができると考えられる。

本研究内容については、日本色彩学会、第2回秋大会にて「色彩と音楽のふさわしさに着目した感性データベースとアプリケーションシステムの構築」として発表予定である。