表題番号:2013B-201 日付:2014/04/25
研究課題コミュニケーションベースの復興まちづくり計画文脈形成のシステム化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 教授 土方 正夫
研究成果概要
本研究の目的は、地域計画において常に問題となる縦割り行政(行政の機能分化施策)と地域形成の横割り論理(まちづくりに代表される住民による意味世界の構築)の間で生じる計画ギャップ問題に対して、情報論の立場から計画プロセスを地域文脈形成プロセスとしてとらえ、行政と地域住民の創発的なオープンコミュニケーションシステムを形成することで、問題の解決を図ってゆくことである。
本研究では気仙沼市階上地区の震災復興まちづくり計画にアドバイザーという立場で参与観察による方法で、本研究目的の達成を目指した。この計画は地域住民自らが、被災以前から抱えていた、人口減少、地域経済の低迷等を含めて、被災後の地域の将来像を自ら形成し、同時に地域の問題を解決するという自律的活動ということができる。すなわち、公共的な課題に対して行政への要望を纏めることに留まらず、自らの手でやるべきことがらをあぶり出してゆくという試みでもあった。計画主体は自治会、漁協、農協、気仙沼みなみ商工ネット等の地域組織をとりまとめる階上地区振興協議会である。その中に各種の地域組織の意見を集約し、実質的に計画作りを推進する階上まちづくり協議会が新たにを設置された。アドバイザーとしては他に議員、震災後地域で活動を続けてきたボランティアの代表者が加わった。地域計画の文脈を創り上げるには、それぞれの地域組織の中で断片化している地域情報を共有すると共に、地域の固有性を含む意味情報の相互関係をシステマティックに組み上げてゆくことが必要とされる。そのために地域各組織が抱える課題の報告会を9月より計4回開催し、各回毎に参加者全員で、報告内容を中心とするワークショップを開催し、地域課題の共有を行うと共に、他組織の活動と関連組織の関係性を明らかにしてゆくことが行われた。更にその結果をまちづくり新聞として取り纏め、地域全体にフィードバックすることで、地域情報の共有化を図った。更に、議論された内容を具体的に地図に落とし込み、データと情報の蓄積を図った。また、報告会とは別に、個別課題の相互関係性を検討するために2回のワークショップが行われ、住宅整備を含む地域基盤の形成、地域の基盤産業でもある農業、漁業産業振興、地域教育等の個別課題に対する将来像の議論が行われ、その結果もまちづくり新聞を通して地域全体での共有化を図った。この間、行政側の復興計画づくりも時々刻々進んでいたが、階上地区に関する施策に関しては、議員を中心にワークショップで説明がなされた。これらの活動を通して、2014年2月に住民の手による階上地区復興計画書が取り纏められ、行政施策に反映すべく気仙沼市に提出された。
このプロセスに参加することを通して以下のことが明らかになった。
1 地域の生活者は地域について誰しもが断片的情報しか持っていない。
2 また、この断片的情報は地域住民の生活と深く関わる意味情報でもある。
3 この断片的な意味情報の関係性を整理し、地域情報として文脈を形成するプロセスは大学やボランティア組織等の外部者及び市会議員の役割が大きい。特に住宅建設・整備事業、地域基盤整備事業等、行政の縦割り機能を中心とした行政施策に関する行政とのコミュニケーションについては市会議員の役割が大きい。
4 断片化された地域情報を継続的に蓄積する組織主体が居ない
5 まちづくりのプロセスでデータ(過去の行動記録)・情報(意思決定の素材)・知識(構造化されたデータ)の区別は重要である。
6 社会的文脈と地理的な意味での地区独自の課題の接点を明示することは、計画文脈の形成という点で地区間の関係性を強化する。
7 共有化の方法
まちづくりのプロセスではコンフリクトを含む課題解決が困難な課題も数多くあることも確かである。計画作りのプロセスの中で成長してゆく地域文脈の形成に対して文脈の成長を阻む制約要因は何であるかを記録に留めておくことは重要である。
今後の課題としては時々刻々変わってゆく計画文脈を管理し、地域情報共有化を推進するメディアの在り方を明らかにしてゆく必要がある。