表題番号:2013B-195 日付:2014/04/10
研究課題感情分析と確率的手法による合意形成過程の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 吉江 修
研究成果概要
さまざまな意見が交わされ次第にひとつの合意点に達していくという過程は、会
議やディスカッションとして頻繁に見受けられる。また近年では、電子掲示板、
ソーシャルネットワーク等を利用した情報交換や電子的手段によるパブリックオ
ピニオンの形成も珍しくない。ある発言内容に対してレスポンスがあり、これが
繰り返されることにより最終的に合意に達するという議論プロセスを、ここでは
合意形成過程と呼ぶ。合意形成過程において、どの発言が全体に大きな影響を与
えたか、各人の他の意見に対する支持状態が、ある発言によってどのように変化
したかを、ベイズ推定を用いて求める手法について検討することが、本研究の目
的である。その際、音声情報を利用できる場合には、そこから話者の感情を抽出
しその立場を推定することにより、支持状態解析の精度を向上させる。
以上のような目的のもと、議論により次第に合意形成へと導かれる過程を工学的
に解析するためのモデルの構築から検討を開始した。議論で述べられた発言の集
合をCとすると、議論への参加者それぞれについて、支持する発言の組み合わせ
はCのべき集合で表される。すなわち、ある人の議論中に現れる発言に対する支
持状態は、Cのべき集合の各要素に確率を付した表とみなすことができる。これ
より、合意形成過程の工学的解析を、議論中に現れる発言内容を観測し、この確
率を更新して、各参加者の支持状態を推定することである定義した。ここで、発
言とは「ある支持状態のもとで対象発言に対して「レスポンス」(肯定的、否定
的あるいは不明)を返し、つぎの支持状態へと遷移すること」と定義すると、音
声情報としての「レスポンス」に含まれる話者の情動情報を利用することが考え
られる。音声情報から話者の情動(喜び、恐れ、中立、怒り、悲しみ、嫌悪)認
識を行う手法はすでに提案されている。さらに我々のχ2検定に基づく実験結果に
よれば、「喜び、恐れ、中立」と肯定的な立場、「怒り、悲しみ、嫌悪」と否定
的な立場とは一定の相関がある。これらを根拠に、テキスト処理による支持状態
遷移と音声情報からの感情分析とを連携させ、発言があるたびに支持状態の確率
を更新するアルゴリズムを提案した。また、議論とともにある発言者が自分の意
見をより強固なものとしていく場合、他の参加者からの意見を受け、自分の意見
を変更する場合等について、シミュレーションにより、提案アルゴリズムの妥当
性を評価した。今後、実際の議論の音声記録を用い、本アルゴリズムの評価を行
っていくことが必要である。