表題番号:2013B-185 日付:2014/04/07
研究課題固体キセノンを用いた多目的放射線検出器開発のための放射線物性の基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 長谷部 信行
研究成果概要

 本研究の課題は、固体キセノンの放射線物性、即ちW値、電子・空孔それぞれの移動速度等を放射線による信号計測から決定する。ここでは、キセノン固体成長のための低温技術及び固体成長制御技術の習熟を平行平板型電離箱を用いて試みてきた(2012年応用物理学会で報告)。放射線の信号計測には、固体が結晶状態になるまで長期間の温度制御が必要であること、また、電離箱にはFrisch gridを電極間に挿入することが必要だが、これを固体内に挿入することは非常に難しいために、電離箱をLuke型の電極で実現することとした。
 固体結晶の成長を、(1)最初に固体を作成し、(2)これを生成して結晶化する、という順序で研究を進めてきたが、(1)は成功したが、(2)に関しては長期間(~2週間)の温度コントロールに適した制御装置が現在有してないので、今後の課題である。これに代えて約50時間かけてゆっくりと温度及びガス圧を制御しながら固体成長を行うと、シンチレーション光の一部を取り出せる程度に透明な固体成長には成功した。ただし、放射線によって作られたイオン対の電子を電極に効率よく輸送できる程の透明度の高い結晶成長には至っていない。しかしながら、上記のどちらかの方法で固体成長が出来たとしても、Luke型の電離箱でどのような信号が捉えられるのか予め動作状態を知ることが重要で、これを気体電離箱としてLuke型電極を設計製作して、動作状態を先ず測定して来た。
 平行平板電極の一つをカソードとし、金属板電極を用いる。一方アノード電極はストリップ型電極とし、ストリップを一本置きに接続し2種類の電極として使用する。一方のストリップでは電子を収集してその全電荷を計測し(A1)、他方のストリップでは、残留陽イオンの影響を計測する(A2)。電離箱は、先ず高真空とし、希ガス(ここではPRガスを使用)を約3気圧充填する。計測ではカソード上に設置したα線源からのアルファー線による電離現象をアノード電極で観測する。観測ではカソードに負の高圧を印加し、アノードのA1とA2の間にはA1に電子が集まるようにA2に負のバイアスを印加する。収集電子の全電荷はA1からの信号からA2からの信号を差し引き、陽イオンの影響を除去して求める。このようにしてアルファー線のエネルギー観測が可能なことが現在確認されたところである。従来使用されていたFrisch Grid型電離箱とほぼ同程度の性能が得られてた(2013応用物理学会で発表)。