表題番号:2013B-184 日付:2014/04/07
研究課題月物質の絶対年代及び化学組成の高精度分析装置の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 長谷部 信行
研究成果概要
月物質の絶対年代及び化学組成の高精度分析装置の開発
岩石の元素分析装置として能動型蛍光X線分析装置の焦電素子を利用したX線発生装置の基礎開発・研究を中心に進めた。X線発生強度の高輝度化に向けて、パラメーター(ガス種、ガス圧、電極間距離ほか)について、基礎データを取得して、市販のX線発生装置の20倍以上の高輝度化に成功した。さらに、小型軽量・低電力・高輝度化が実現すれば、可搬・簡易型化学分析装置として、実験室だけでなる野外で試料の元素分析装置として広く利用できるものと期待している。
能動型蛍光X線分光計AXS: 月面に着陸して地質ユニットの元素組成を計測することは、宇宙科学、地質学的観点から必要不可欠である。能動的にX線を発生する装置XRGとシリコンドリフト検出器を蛍光X線検出器として、それらを組み合わせて能動型蛍光X線分光計AXSを構成する。X線発生装置は、焦電結晶LiTaO3をペルチェ素子で加熱・冷却して3)、X線を発生させる。本研究開発では、AXSのX線発生部を中心に進め、短時間にできるだけ多くの岩石試料を高性能で分析できるようにXRGの高輝度化に力点を置いた。
X線発生装置XRG: 一般に、X線発生法としては、(A)144Cmなど線源を励起源、(B)熱陰極型真空管であるX線管を励起源、(C)焦電結晶LiTaO3を加熱・冷却することでX線を発生させる励起源、が挙げられる。項目(A)の宇宙に放射性物質を持ち出すことは日本では困難である。項目(B)は高電圧電源が必要であり大きな電力(10W以上)が必要となる。項目(C)では、焦電素子を利用することで高圧電源が不要、かつ低電力で比較的高輝度のX線励起源が実現する。本AXSの特徴としては、高エネルギー分解能(~130eV @Fe-K)を有することから元素の同定能力が高く、小型・省電力(3kg, 6W)である。X線発生装置に高圧電源が不要かつ放射性物質の励起源を使用しないので放射能汚染もなく、計測時のみX線を発生できる特徴を有する。
■焦電素子型X線発生器XRGの基礎実験と試作
焦電結晶型X線発生装置としてAMPTEK社のCOOL-Xが市販されているが、現存する機器では十分なX線強度を得られないために、希少元素の組成を求めるにことは難しい。そこで本研究では、焦電素子を利用したX線発生装置の高輝度化を目標とする。市販品(AMPTEC:COOL-X)の50倍以上にX線発生強度を増大する事を目標とする。第一段階として10倍以上を目標とした。焦電素子の寸法、標的電極構造、ガス種(乾燥空気、乾燥窒素、アルゴン、酸素)、ガス圧(10~50 mTorr)、常温から約120℃までの加熱、高温から常温までの冷却時間などをパラメータとして、実験を実施した。まず、高輝度化に向けたパラメータの最適条件を決める実験を行った。それら一連の実験を実施するための真空チェンバーの製作した。各種実験の結果、市販の装置と比較して約20倍のX線強度が達成できた。今後、熱伝導の大きなLiTaO3素子やLiNbO3素子、標的電極Cu/Moなどに変更して、更なる高輝度化へ試みる予定である。これら一連の実験結果については、その都度、国際会議や学会等で講演発表してきた。2014年度中に、X線発生装置の高輝度化に関する論文を2編投稿予定である。