表題番号:2013B-177 日付:2014/04/01
研究課題分子・細胞・組織の階層的集積と統合による運動器官生体ロボットの創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 武田 直也
研究成果概要
  生体には、細胞や基質が一方向に配向して構造化し機能を発現する組織が見られる。骨格筋組織では、筋芽脂肪が縦一列に整列・融合して筋管へと分化し、筋管は筋線維へと成熟する。多数の筋線維は同一方向に配向しながら三次元の束となって大きな収縮力を示す骨格筋組織を形成する。さらに、骨格筋の端は腱組織へと連なるが、この腱組織は主に配向したⅠ型コラーゲン線維からなり、線維軟骨へと移行しながら傾斜的に石灰化が進み、最終的に骨へ埋入する。このような構造と機能をもった骨格筋と腱の三次元組織をin vitroで工学的に作製することを目指し、エレクトロスピニング法により生体適合性材料を用いて作製したマイクロファイバーを基盤とした三次元培養足場を構築した。
骨格筋組織の作製では、ファイバー同士に適度な間隔を与えつつ同一方向に配向させて中空に張った「弦状」の足場を作製した。これまでに、I型コラーゲンで作製した長さ1 cm x 幅5 mmの弦状足場でラット初代骨格筋細胞を培養して三次元筋組織を構築した成果を踏まえて、より大型の組織作製に取り組んだ。このため、I型コラーゲンに生分解性高分子であるポリカプロラクトン(PCL)を組み合わせてファイバーの強度を向上させ、ドラムコレクタを用いてファイバーの配向化を効率的に行なうことで、長さ2 cm x 幅1 cmへと足場の大型化を達成した。この足場にラット初代骨格筋細胞を播種し21~24日間培養することで、拍動120回/分、収縮率2%程度の自発的収縮能を有し横紋構造をもつ骨格筋組織の形成を達成した。蛍光抗体染色と画像解析による組織中央部における横紋組織の存在率は、約70%と見積もられた。
腱組織については、長さ1 cmの弦状足場の半分を塩化カルシウム溶液とリン酸水素二ナトリウム溶液へ交互に浸漬し、ファイバー束の半分にHApを析出させた傾斜的石灰化三次元足場を作製した。XPSによる元素組成の解析から、傾斜的にHApが析出していることが確認された。この足場に線維芽細胞NIH3T3、前骨芽細胞MC3T3-E1さらにヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hbmMSC)をそれぞれ播種したところ、傾斜化した足場の線維部、移行部、HAp化部の各局所において細胞の形態・分布が変化した。また、腱マーカーであるスクレラキシス(Scx)遺伝子の発現をqRT-PCRにより定量的に解析したところ、足場材料の違いによりhbmMSCsのScx遺伝子発現の変化が示唆された。
以上の結果を踏まえて、今後、各再生組織の構造と機能の改善をさらに進めると共に、別途作製を進めている神経束組織や血管組織とも組み合わせて複合組織・器官の構築を目指す。