表題番号:2013B-176 日付:2014/04/01
研究課題三次元可変集束層流マイクロ流体デバイスによるマクロ複合生体組織の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 武田 直也
研究成果概要
[緒言]
細胞からのin vitroでの生体組織の作製研究は近年大きな注目を集めており、特に、移植医療への応用も可能なセンチメートル以上の大型組織の作製が望まれている。長大な血管組織や神経組織を作製するためには、マイクロ径のファイバー状ハイドロゲル内で細胞を三次元包埋培養するアプローチが有力な手法と考え、本研究では、Core-Sheath状の同軸二層型ゲルファイバーを連続的に作製し得る新規なマイクロ流体デバイス(三次元可変シースフローマイクロ流体デバイス)を開発した。このゲルファイバー内部で血管内皮細胞または神経系細胞を包埋培養し、血管組織や神経組織の作成に向けた内皮細胞の融合および神経突起の伸長挙動を評価すると共に、これらを効率的に誘導する生体高分子ゲル材料についても検討した。

[結果と考察]
三次元可変シースフローマイクロ流体デバイスは、細胞を流すCoreとなる層に外側の流路からゲル作製用高分子溶液(Sheath層)を二段階であてて周囲を取り囲みながらCore層を流路中央へと寄せることで、Core-Sheath状の同軸二層を実現する設計とした。さらに、最外層の流路から供給したゲル化水溶液で高分子をゲル化させ、流れに乗せてゲルファイバーをデバイス外へと排出させる工夫を施した。
まず、それぞれの流路を流れる各溶液の流量比を調節することによって、Core層の直径を10 μmから40 μm程度まで調節できることを確認した。続いて、Ca2+との錯形成でハイドロゲルを形成するアルギン酸をSheath層から導入し、最外流路からはCa2+を供給して細胞をCore層に包埋したゲルファイバーを作製した。Core-Sheath状の同軸二層型ゲルファイバーの形成は、細胞と一緒にCore層にFITC標識コラーゲンを導入して蛍光でCore層のみを可視化することで確認した。Core層にPC12細胞を導入し、Sheath層のゲル材料にはアルギン酸のみを用いた実験では、三日間の培養において神経様突起がCore層に沿って伸長する様子が観察され、また80%以上のviabilityが得られた。
さらに、より細胞培養に適した培養場とするため、Sheath層のハイドロゲル材料について検討を加えた。多糖であるアルギン酸に同じく多糖類のカラギーナンを組み合わせたり、細胞の三次元培養足場に頻用されるゼラチンやフィブリン(いずれもタンパク質)とアルギン酸との組み合わせについても評価した。ウシ大動脈血管内皮細胞(BAEC)をCore層に導入して検討したところ、カラギーナンとの組み合わせではゲルが脆くなってしまったのに対し、ゼラチンおよびフィブリンと組み合わせたゲルファイバーでは十分なゲル強度が確保され、90%以上のviabilityが得られた。さらに細胞が一列に連なった構造体が観察された。今後のさらなる研究進展により、本デバイスを用いて作製したゼラチンやフィブリンを主体とするゲルファイバーを用いて、長大な毛細血管や神経組織の構築が期待される。