表題番号:2013B-175 日付:2014/04/05
研究課題乳腺構造の微小環境を利用した癌遺伝子の解析システム
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 仙波 憲太郎
研究成果概要
 本研究は癌の悪性化への微小環境の影響を解析するため、①乳腺再構築系を用いて、人工的に微小環境を変化させて癌化を誘導し、解析するシステムの開発、および、②乳管内に直接的に細胞を導入してDCISを形成させ、その腫瘍環境からの浸潤・転移などの悪性化を評価するシステムの開発を最終目的としている。
 ①について繊維芽細胞などを加工した間質系と遺伝子改変乳腺上皮細胞の相互作用を観察する予定であったが、再構築させる乳腺側の幹細胞への遺伝子導入が、今後予定する多量の遺伝子スクリーニングには耐えられない効率であり、このシステム開発における大きな問題となっていた。そこで本年度は乳腺幹細胞を濃縮し、効率よく導入する方法の確立を最優先課題として検討した。セルソーターの利用を視野に、乳腺細胞を脂肪細胞・繊維芽細胞・血球細胞などから分離する技術を向上させた上、MACSとの組み合わせで効率よく幹細胞画分をソート可能なプロトコールを確立させた。また、感染させるウイルスのpackagingベクターの比を変えることで導入効率を向上させることに成功した。
 ②では、乳癌サブタイプが明確で種類が豊富なヒト乳癌細胞株での解析を目指し、生着の試験としてヒト乳癌細胞株であるMCF7を免疫不全マウスであるrag2KOに導入したが、生着が著しく悪かった。皮下移植の検討で、免疫不全度がより重度のNOD/SCIDマウスの方が生着率が良いことが判明し、今後のレシピエントマウスの使用における重要な知見を得た。また、マウス乳腺から繊維芽細胞を採取し炎症性サイトカインで刺激した際にヒト乳癌細胞の癌幹細胞性の維持に重要なJAG1発現が亢進することや、乳腺上皮細胞においても妊娠を模倣したホルモン投与によってJAG1発現が誘導される事を明らかとし(文献1)、今後の解析における炎症や妊娠による乳腺微小環境の変化の重要性が示唆された。
 また、①②に共通する腫瘍化後の経時変化の観察においてIVISの利用が可能となったため、用いる一連の細胞株にLuciferase遺伝子を導入した。また、rag2KOマウスはB6黒毛による発光吸収の改善のため、FBVマウスバックグラウンドのアルビノ化を進めている。