表題番号:2013B-171 日付:2014/03/04
研究課題CRMPの神経回路形成および神経再生における役割の解明と脊髄損傷治療への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大島 登志男
研究成果概要
【研究目的】
中枢神経系損傷に対する決定的な治療法は未だない。そのため、中枢神経系の限られた再生能力の分子機構解明が急がれている。Collapsin-response mediator protein (CRMP)は軸索ガイダンス分子であるセマファリンの細胞内シグナル伝達物質として同定され、その後の研究で、軸索伸長などへの関与が示された。CRMPはファミリータンパク質でCRMP1-5が別々の遺伝子にコードされている。これらはヘテロ4量体を形成して機能していると考えられているが、生体内での役割は不明な点が多い。本研究は、CRMP遺伝子の改変マウスを用いて、中枢神経損傷後のCRMPの機能解明を目的とする。我々はこれまでに、CRMP4欠損マウス由来の後根神経節細胞の培養実験では中枢神経系神経再生を阻害する物質に対する反応が減弱していることを見出して報告している(Nagaiら2012)。従って本研究では特にCRMP4欠損(Crmp4-/-)マウスを用いた研究を行なった。
【研究成果】
野生型マウスの損傷した脊髄において再生阻害活性あるいは細胞毒性のあるCRMP4 のいくつかのformが上昇していることが確認された。こうした結果を踏まえて、本研究ではCrmp4-/-マウスを用いることにより、脊髄損傷後の再生過程におけるCRMP4の機能解明を試みた。脊髄損傷4週間後、Crmp4+/+マウスにおいては損傷部位以降の脊髄神経軸索消失、半身不随が観察されたが、Crmp4-/-マウスの脊髄では神経軸索が長距離にわたり再生し、後肢に加重ができるほど運動機能が回復していることが確認された。組織学的にも、再生する軸索のマーカーであるGAP43の増加が、生化学的および組織学的に示された。従って、CRMP4の機能を阻害することで、脊髄損傷の回復が改善される可能性がin vivoで示された。これらの結果から、CRMP4を標的とした中枢神経系損傷に対する新規治療開発の可能性が示唆された。