表題番号:2013B-169 日付:2014/04/22
研究課題ランダムスキャン2光子励起顕微鏡による多点同時分子動態および膜電位測定
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 井上 貴文
研究成果概要
本研究は申請者の開発したランダムアクセス型2光子励起顕微鏡システムを用いて、これまで困難だった遊離タンパク質の動態を直接計測することを目指す。多点で同時に蛍光相関分光法(FCS)を適用することにより樹状突起の細胞質中を高速に移動するタンパク質分子の動態を捉え、シナプスと核を連絡するシグナル系の実態を明らかにすることを目的とする。これまで細胞質内を拡散する遊離型タンパク質は拡散速度の桁違いの大きさのため直接的な動態の計測は困難だった。蛍光相関分光法(FCS)は溶液中での一分子の振る舞いを計測する手法で、これを細胞内に適応することにより細胞質内の遊離タンパク質の挙動を追跡できる。しかし従来のFCS装置は細胞内の一点からしか記録できず、細胞内の様々な部位における機能タンパク質の動態解析を行うには制約があった。特に神経細胞は細胞内の機能局在性が高く、同時多点からのFCS解析は非常に多くの情報をもたらすことが期待される。本研究では新規に開発した2光子励起顕微鏡システムを用いカルモジュリン、CamKII、Ca結合タンパク質(calbindin等)などシナプス機能に重大な機能分子のスパイン内外での動態を検出することを試みた。その結果初代培養神経細胞内でのタンパク質拡散の様態を示すデータが得られつつある。また、解析法を開発しつつ、データモデルに基づく拡散を精密に解析した。
同顕微鏡の高速ランダムスキャンは膜電位色素の蛍光変化を多点で高速に記録することが可能で、これにより複数神経細胞の活動電位を光学的に計測することが可能になる。初代培養神経細胞に電位依存性色素を導入する方法を開発し、さらに膜電位および細胞内カルシウム濃度の同時記録系を立ち上げ、実際に計測を行った。その結果、カルシウム濃度計測では時間分解能が不足して測定できなかった神経細胞同士のシナプス結合の向きが膜電位計測により測定できることが明らかとなった。