表題番号:2013B-158 日付:2014/04/14
研究課題光受容分子を介した月齢と地磁気への生理応答機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 岡野 俊行
研究成果概要
本近年、動物のさまざまな網膜外組織に多様な光受容分子が存在することが明らかになってきた。このような光センサーのひとつとして特にクリプトクロムが注目を浴びつつある。クリプトクロムは、概日時計構成分子・青色光センサー・磁気センサーなどとして機能すると考えられているが、概日時計以外でのメカニズムはほとんど不明である。本研究では、研究代表者が最近得た知見に基づき、クリプトクロムが概月時計や磁気受容に関わる可能性を検証すると同時に、大量発現したクリプトクロムタンパク質の機能解析を通して、その光受容メカニズムを明らかにすることを目指した。具体的に本研究では、これまでの研究に基づき、【研究1】大量発現系を利用したタンパク質レベルでのCRY性状解析および【研究2】月齢時計の発振・同調におけるCRYの役割の解析を行った。それぞれの研究項目に関する成果は以下の通りである。

【研究1】大量発現系を利用したタンパク質レベルでのCRY性状解析
研究代表者はこれまでに、大腸菌をはじめ種々のタンパク質発現系を検討し、酵母を用いた系においてニワトリCRY4(cCRY4)を安定に発現させることに成功した。これまでに、温度感受性の抗cCRY4単クローン抗体を用いて温度変化のみでcCRY4を高純度精製し、スペクトル解析に供することに成功している(図1)。そこでこれをさらにスケールアップし、結晶構造解析に足る量のcCRY4を得る。

【研究2】月齢時計の発振・同調におけるCRYの役割の解析
概月時計の有無を知るために、自然条件下で採取していたゴマアイゴを稚魚段階で実験室に移動し長期間飼育した。月齢2周期以上にわたって間脳におけるSgCRY3のmRNA発現の解析によって、自然条件下で見られたSgCry3mRNAリズムが月光刺激の無い状況で持続するか等を調べた。その結果、SgCry3mRNAリズムは持続しなかったことから、実験室環境では月齢時計の発振は観察できなかった。一方、概月時計の局在を知るために、SgCRY3に対する抗体を作成し、飼育した魚の間脳におけるタンパク質の局在を調べたところ、興味深いことに、生殖応答に重要な間脳視床下部の乳頭部に存在する細胞群において顕著な発現が見られた。


 以上の解析を通して、概月時計の発振を実験室で確認することはできなかったものの、月齢応答におけるCRY3の重要性を示すことができ、同時に、試験管内でのCRY解析にむけたタンパク質発現・精製系の確立に成功した。