表題番号:2013B-152 日付:2014/04/04
研究課題エナンチオ選択的反応を用いた面不斉パラシクロファン配位子の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 柴田 高範
研究成果概要
 新規かつ種々の誘導体の合成が容易な不斉配位子群の合成手法の開発は、多彩な不斉炭素骨格の構築に直結する極めて重要な課題である。不斉配位子の不斉要素として、BINAPに代表される軸不斉、SDP、QuinoxP*に代表される中心不斉が挙げられる。一方、「面不斉」リン配位子として、二置換フェロセニル骨格を有する化合物が研究されており、市販の化合物も多い。さらに、面不斉「パラシクロファン骨格」を有する二座配位子としてPHANEPHOS (bis(diphenylphosphino)[2.2]paracyclophane)が市販されているが、BINAP誘導体や二置換フェロセン誘導体と比較して研究が立ち後れている。その理由は、効率的かつ汎用な不斉合成法が少ないのが一因である。
 今回我々は、当研究室が開発した不斉オルトリチオ化による面不斉パラシクロファンの高エナンチオ選択的手法により、 [1,n]パラシクロファン骨格を有するモノホスフィン化合物、ならびにジホスフィン化合物を高鏡像体過剰率で不斉合成した。本法により、架橋部の炭素数、構造、あるいはリン上の置換基など、多彩な面不斉リン化合物を得ることが出来る。
 さらに、これらの面不斉リン化合物の不斉配位子としての適用として、まず当研究室で開発したパラジウム触媒を用いる連続的不斉Sonogashiraカップリングの不斉配位子として用いた。その結果、これまでに検討した全てのリン化合物よりも高いエナンチオ選択性を達成した(最高90% ee)。また、同様にパラジウム触媒を用いる反応として、Suzukiカップリングを検討した。過去において、中程度のエナンチオ選択性であり、しかも塩基として有毒な水酸化タリウムを用いることが必須であったジクロロフェロセン化合物の非対称化による不斉Suzukiカップリングをモデル反応として検討した結果、通常の無機塩基である炭酸ナトリウムを用い、80% eeを越える高エナンチオ選択的にモノアリール化生成物が得られた。
 上記の通り、我々が独自開発した手法により不斉合成したオリジナルなリン化合物の不斉配位子として有効性を実証できた。今後、パラジウム以外の金属触媒の不斉配位子として、さらにはそれ自体を不斉有機触媒として検討する予定である。