表題番号:2013B-147 日付:2014/04/08
研究課題量子観測をキーワードに迫る量子論の基礎と量子情報
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 湯浅 一哉
研究成果概要
本研究課題は,「量子観測」をキーワードに量子論の基礎的諸問題や量子情報技術に関わる問題に取り組むことを目的としていた.主に「量子コヒーレンス」,「量子系制御」,「量子計測」の 3つの柱を中心に,それらの話題において「量子観測」が非自明で意外な役割を演じる興味深いテーマに取り組み,以下の研究成果を得た.9ヶ月間ほどの研究期間ではあったが,4編の論文発表に結実した.

■量子コヒーレンス 論文発表には至っていないが,(1) ボース凝縮体の干渉現象が量子論における観測に対する射影仮説を素直に適用する形で説明できることを解明した.さらに,このアプローチによって議論の見通しが良くなり,(2) 超伝導体間に流れるジョセフソン電流も全く同様に説明できることが明らかになりつつある.対称性が自発的に破れた状態が観測による射影によって実現されるという「観測による量子コヒーレンス」がフェルミ粒子系でも成立することを明確に示す最初の例になる.現在,論文執筆に向けて,細部の検討を継続している.

■量子系制御 量子系に対して観測を行うとその観測対象の状態が乱されてしまう効果をうまく活用することによって量子系を制御しようという「観測による量子系制御」のアイデアを追究した.(1) その数学的基盤となる「量子エルゴード写像」に関する一連の数学的定理を詳細に検討し,論文としてまとめて発表した.(2)「観測による量子系制御」の可能性の 1つとして,量子系に観測を頻繁に行うことで生じる「量子ゼノン効果」を拡張した制御手法の可能性を検討した.通常の量子ゼノン効果の場合とは異なって,観測の仕方を徐々に変えていくと,量子系を断熱的に変化させたときに生じるのと同じ非自明な幾何学的位相を生じさせることができることを明らかにし,量子計算等の量子情報処理に必要となる量子演算ゲートを実現する一つの方法として論文発表した.

■量子計測 (1) 量子情報処理デバイスの実現を目指す量子ドット系において,そのデバイスが想定通りに機能するかどうかを調べる際に必要となる「量子プロセス推定」を実現する方法を検討し,論文発表した.(2) インプットーアウトプット関係からブラックボックス内のシステムを推定する「量子システム同定」の我々の理論を,現実には避けがたい開放系の時間発展をも含められる形に拡張することに成功し,論文発表した.