表題番号:2013B-145 日付:2014/04/08
研究課題電子ネマティック状態における光誘起異方性の探索
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 勝藤 拓郎
研究成果概要
 V3+ (3d2)が軌道整列を起こすスピネル型 V 酸化物(AV2O4, A=Mn,Fe,Co etc.)に関して、A サイトを様々に変化させた試料、種々のドーピングを施した試料について単結晶を作製し、ポンププローブ分光法において、ポンプ光とプローブ光の偏光方向を変えて光誘起スペクトル変化を測定することにより、「電子ネマティック相」の探索をおこなった。

AlドープしたMnV2O4の光誘起相転移のポンプ光偏光依存性
 57Kでフェリ磁性相転移と軌道整列に由来する構造相転移を起こすMnV2O4のVサイトにAlをドープすると、フェリ磁性相はそのままであるが、構造相転移が消失して再低温まで立方晶となる。この物質に関して、プローブ光の偏光を変えずに、ポンプ光の偏光方向のみを変えて、光誘起スペクトル変化に違いが生じるかどうかを調べたが、現在のところ有意な差は得られていない。

CoV2O4の光誘起相転移のポンプ光偏光依存性
 180K以下でフェリ磁性転移を起こすが、あらわな構造相転移を起こさないCoV2O4について、プローブ光の偏光を変えずに、ポンプ光の偏光方向のみを変えて、光誘起スペクトル変化に違いが生じるかどうかを調べたが、現在のところ有意な差は得られていない。

CoV2O4に関する基礎研究
 CoV2O4において、磁気相転移が存在するにもかかわらず、軌道整列に由来する構造相転移が観測されない理由について、単結晶と多結晶を用いて詳しい測定を行った。その結果、単結晶試料ではCoが一部Vを置換しており、その結果、ストイキオメトリックな多結晶に存在する60Kの異常が、単結晶では消失していることが分かった。さらに磁場下での歪測定により、フェリ磁性転移温度直下では磁化方向に結晶が伸びるが、さらに温度を下げると磁化方向に結晶が縮む、という変化を示すことが分かった。この結果は2つのタイプの軌道整列の競合として解釈できる。こうした結果は、CoV2O4の特定の温度で電子ネマティック相が実現している可能性を示唆するものである。