表題番号:2013B-131 日付:2014/03/23
研究課題化学反応と連動した新規酵素反応プロセスと汎用的なアミド化合物合成法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 木野 邦器
研究成果概要
ペプチド、ポリマーなどの有用化合物を合成するうえで、アミド結合形成反応の実用的なプロセスが求められている。ペプチド合成において一般的に利用される固相合成法は、多量の縮合剤を必要とし、かつ煩雑な工程を繰り返す必要があり、実験室用途に限定される。近年、Boronic acid誘導体を触媒とするアミド合成が報告されているが(Nature, 480, 471-479, 2011)汎用的ではない。リボゾームを介したタンパク質合成システムはアミノ酸同士の結合に限定され、コモディティーケミカルの実生産において問題があるなど、現在、汎用性のあるアミド化合物合成法は確立されていない。我々は新規アミノ酸リガーゼによる革新的な短鎖ペプチド合成法の開発に成功しているが(Biosci. Biotech. Biochem., 74(1), 129-134, 2010, 他)、任意のペプチド合成には至っていない。一方、非リボソーム型ペプチド合成酵素(NRPS)はチオテンプレート機構によりリボソームとは独立してペプチド性二次代謝産物の生合成を行う巨大酵素複合体で、その反応特性と組織化された構造から、構成モジュールの組み合せによって任意のペプチド合成が可能であるが、合成収量が少なく工業的利用は困難であるとされている。我々は、NRPSのモジュールであるTycAを単独利用した場合、C末端にプロリンを配する直鎖状ジペプチドを高収量で合成できることを明らかにした。ジペプチドの生成量はプロリン濃度に依存して増大し、D-体を含むプロリン誘導体に対してもジペプチドが生成することなどから、TycAによりチオエステル化したアミノ酸に対してプロリンのような求核活性を有する化合物が化学的に作用してジペプチドが合成されるものと推察している。そこで、工業的な利用を目指し、化学反応と連動した酵素的アミド結合形成反応プロセスの開発検討を行った。
① TycAモジュールを利用した各種アミド合成
TycAモジュールによりL-トリプトファンをチオエステル化し、プロリン誘導体(L-アゼチジン-2-カルボン酸、cis-4-ヒドロキシ-L-プロリン、L-プロリンアミド)およびアミン類(メチルアミン、ジメチルアミン、アゼチジン)を求核剤として反応させた結果、全ての反応においてアミド化合物が生成していることを確認した。
② TycAにおけるアデニル化ドメインを利用した各種アミド合成
TycAモジュールはアデニル化、チオエステル化、エピメリ化の各ドメイン構造から形成される。ここで、アデニル化ドメインのみでも基質アミノ酸の活性化が可能であり、モジュールを利用した場合と同様に、アミン類を作用させることで求核置換反応が可能であると推察した。本仮説に基づき、TycAにおけるアデニル化ドメインのみを用いて①の反応を行った結果、同様に各種アミド化合物の合成が可能であった。
 本研究から、アミノ酸を酵素的にチオエステル化またはアデニル化できれば、アミン類による求核置換(化学反応)によってアミド結合形成が可能であることが強く示唆された。