表題番号:2013B-130 日付:2014/03/23
研究課題機能性分子としてのアミノ酸誘導体の開発とオリゴペプチドライブラリーの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 木野 邦器
研究成果概要
近年、ペプチドの持つ有用な物性や機能性に着目した開発研究が医薬品・食品・化粧品などの様々な分野で展開されている。我々はこれまで、微生物由来酵素であるL-アミノ酸リガーゼ(Lal)を利用したペプチド合成研究を展開してきた。Lalは保護基を持たない遊離のアミノ酸を基質としてATPの加水分解反応と共役してペプチドを生成するため、発酵法などの環境負荷低減型合成プロセスへの応用展開が可能であり、物質生産において非常に優位性の高い酵素であると言える。合成可能なペプチドのバリエーションを多くすることは、ペプチドの機能性分子として有用性をさらに高めることとなり、医薬・化成品・食品など幅広い分野での利用を推進することができる。そこで、従来法による自然界からのLalの探索に加え、取得済のLalの機能改変を検討した。また、合成可能なジペプチドを中心に機能評価による新たな用途開発を見出す検討も実施した。
Lalの機能改変戦略としては、立体構造情報を踏まえた変異導入が効率的と考えられるため、本研究では、酵素特性が特異的な複数種類のLalの立体構造解析を進め、これらの情報からLalの構造と機能との相関を明らかにして、具体的な改変戦略に基づく変異酵素の創出によって、上記課題を解決することを目的とした。

1.Lalの結晶構造解析
構造解析の研究対象として、Pseudomonas syringe NBRC14081由来TabSとBacillus licheniformis NBRC12200由来BL02410、およびEscherichia coli K-12由来RimKの3種類のLalを選択した。TabSは既知のLalの中で最も広範な基質特異性を有するジペプチド合成酵素であり、しかもN末端やC末端に配置される基質アミノ酸の選択性は高い。したがって、TabSの立体構造情報からはLalの基質アミノ酸認識機構の解明に重要な知見を与えるものと考えられる。高純度精製条件を見出したが、単結晶の取得には至らなかった。
BL02410はオリゴペプチド合成を有するLalである。当初、オリゴペプチド合成活性を有するLalとして、B.subtilis NBRC3134由来RizBを検討していたが、単結晶を得ることはできなかったため、同様の活性を示し一次配列相同性でも約60%であるB.licheniformis NBRC12200由来のBL02410に対象酵素を変更した。晶析条件を見直したところ、期待通り1 mmを越すネイティブ酵素の単結晶の取得に成功し、同様にSe-Met置換型酵素の単結晶の取得にも成功した。続いて行ったX線回折試験でも最大解像度3.0Åの反射を得ることができたが、解析可能なデータの取得には至らなかった。なお、タンパク質の結晶化条件検討ならびにX線回折実験は本学先進理工学部電気情報・生命工学科の胡桃坂研究室の協力を得て実施した。

2.Lalの機能改変検討
 特有の基質特異性を有するTabSの立体構造情報はまだ得られていないが、結晶構造が明らかになっているB.subtilis由来のLalであるYwfEの結晶構造情報(PDB ID:3VMM)と既知のLalのアミノ酸配列を比較して、TabSへの部位特異的変異の導入を検討した。その結果、292位のGlyをAspへと置換したG292Dと294位のHisをAspへと置換したH294Dを掛け合わせた二重変異型酵素(G292D/H294D)では、N末端基質のLysに対し、野生型対比で約10倍の高い親和性を示すようになり、Lys-Xaaの効率的な合成法を開発することができた。C末端に連結されるXaaには、タンパク質非構成アミノ酸であるβ-Alaのほか、γ-アミノ酪酸(GABA)、タウリン、テアニンなど生理活性作用を有する化合物も認識するようになり、Lalを利用したジペプチド合成法は、多様なアミド化合物の合成法としてその可能性が拡大した。

3.Lalを利用した機能性ジペプチドの探索
 ジペプチドやトリペプチドのような短鎖ペプチドには、依然として未知の機能とその用途の可能性が秘められている。既知のジペプチドで謳われている機能性は、天然のタンパク質の加水分解によって提供されるペプチドを対象に機能評価がなされてきた結果であることを踏まえて、任意のジペプチド合成が可能なLalを用いた機能開発の検討に着手した。多様なジペプチドを特異的に合成可能なTabSを用いて塩味増強効果を示すジペプチドの探索を実施した。呈味や塩味増強効果を判定するスクリーニング系を構築し、塩味増強ジペプチドとして報告されているLeu-Ser(特開2012-165740)との比較において、Met-Glyを新たに見出した。また、Bacillus licheniformis NBRC12200由来のBL00235を用いると、Met-GlyならびにLeu-Serの合成収率が高まることも見出した。なお、塩味増強効果を示すジペプチドの探索は、長谷川香料株式会社との共同研究によって実施した。