表題番号:2013B-124 日付:2014/03/07
研究課題衝撃荷重が作用する縮小人体モデルの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 宮下 朋之
研究成果概要
機械構造物が社会の中において重要な役割を果たし,多くの人間との接点を持つ状況で,機械が所望される機能と性能を実現するために,設計者は安全性を十分に考慮するようになっている。しかしながら,人間と機械の特性の相違が顕著となる衝撃荷重が作用する状況や一度に多くの人員が相互に接触する状況が発生し,座席等の機械設備とも力学的な相互作用を発現し,人体の損傷に影響する状況を十分に設計時に加味することは容易ではない.解析技術では計算規模が大きく,考慮すべき境界条件,荷重条件へロバストに適応する必要があり,計算負荷が高い.一方で,実験技術においては,実物が大きい場合には,その取扱いや実験の実施には多大な費用と時間が要する.従来の縮小モデルでの衝突事件で用いられた人体モデルは,衝突時の各身体部位の変形が考慮されていない簡易なモデルであった.そこで本研究では,相似則を用いて設計した人体ダミーモデルをラピッドプロトタイピングにより製作し,衝突時の応答特性の評価を行った.評価は側面衝突用ダミーの生態忠実性について記されたISOのテクニカルレポートTR9790(3)に従って行った.また,皮膚や筋肉を模擬した軟組織を付けたモデルに対して有限要素法解析によるダミー評価試験のシミュレーションを行い,ダミー胴体のリブの幅,胸部を覆う軟組織の厚み,軟組織の弾性係数を設計変数として応答波形の最適化を行った.最適化されたモデルを再びラピッドプロトタイピングにより製作し,評価実験を行うことで解析との整合性の確認と,生態忠実性の向上を確認した.
 相似則を用いて縮小ダミーを設計・製作し,ISOのテクニカルレポートに従って胸部,腰部,腹部の生態忠実性の評価試験を行ったところ,ダミー全体で10点満点中4.615点,5段階評価にすると上から3番目の「Fair Biofidelity」という評価であった.部位ごとに見ると胸部の生態忠実性が特に低かったため,皮膚を模擬した軟組織を導入し,リブ幅,軟組織の厚み,軟組織の弾性係数を設計変数として解析による最適化を行った.その結果,胸部インパクト試験の応答波形の最大荷重を30.4%だけ応答目標に近づけることができた.また,ラピッドプロトタイピングで製作した最適化ダミーでも評価試験を行い,最適化前のモデルと比べて最大荷重が34.3%応答目標に近づいた.
 以上より,人体ダミーモデルの定量的評価と,解析を用いた最適化による人体モデルの改善に成功した.