表題番号:2013B-109 日付:2014/04/14
研究課題微動測定に基づく地震被害集中推定法の高精度化に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 前田 寿朗
(連携研究者) 理工学研究所 招聘研究員 井口 道雄
(連携研究者) 理工学研究所 招聘研究員 安井 譲
研究成果概要
本研究においては,高密度の微動測定を実施して地盤構造を推定することにより,地震時に被害の集中しそうな地域をあらかじめ推定し,予防的防災措置を講じる可能性を明らかにすることを目的とする.過去に地震被害の集中の見られた石川県穴水町,ならびに長野県栄村を主たるテストサイトとして,2007年度より測定および分析を実施してきた.栄村では2011年の長野県北部の地震において被害の集中した青倉地区等で微動測定によるH/Vスペクトルに基づいて2層地盤構造を推定し,2次元FEM解析により基盤不整形性による地震動増大の可能性を指摘し,同時に被害集中域がH/Vスペクトル卓越振動数の急変に対応する,基盤深度が大きく変化する付近に相当することを指摘した.
同地域は千曲川による浸食を受けると共に,後背山地からの土石流等の堆積した崩壊地形であり,一般に表層地盤と基盤の速度コントラストが強く,また基盤の傾き等の方向性が顕著である. H/Vスペクトルも水平成分の方向に依存して変化が大きいため,その平均的な特性のみで地盤構造を推定することの不十分さが考えられた.そこで特定課題においては微動アレー分析方法の検討を主とし,微小微動アレーによる分散曲線の情報を併用することにより,不整形地盤構造の推定精度の向上に注力した.
10月に実施された「微動の会」に参加し,同分野で先駆的な研究を行っている長博士とのミニチュアアレー分析法に関する議論により同方法に関する理解を深めるとともに,長博士の開発したプログラムの使用方法を学んだ. 11月に栄村において中心1点と半径90cmの円周上3点の微動アレーを設定し,中心点の3成分測定でH/Vスペクトルを,円周上3点の上下成分測定を併せて微動アレー測定を実施した.使用機器は従来から使用しているサーボ加速度計であり,レンジ3.33Gal,時間刻み1/256秒,測定振動数100Hz,測定時間20分とした.また,アンプおよびレコーダを含む測定システムを2名で運搬し,移動測定により多点でのアレー測定が可能であることを確認した.
この微小微動アレー測定の結果,H/Vスペクトルは2011年8月に実施した測定結果と同等であり,分散曲線も同月に実施した限られた測定点でのアレー半径3mおよび10mによる結果と同等であることが確認された.したがって,表層地盤の速度構造の影響を検討する上で,微小微動アレーによる分散曲線は十分な制度を有している.従来のH/Vスペクトルのみによる不整形地盤構造の推定においては,表層地盤の速度について周辺の先験的情報から設定する必要があったのに対し,分散曲線では測定地点での速度構造の情報が得られるためたいへん有利である.分散曲線の高振動数側の一定速度は最表層のS波速度相当を代表するため,同速度を用いた3層構造により栄村でのH/Vスペクトルおよび分散曲線を共に説明することが可能となり,より精度の高い地盤構造モデルを構築して地震被害集中要因の分析が可能となった.