表題番号:2013B-104 日付:2014/04/10
研究課題雲過程を含む自由対流圏の総合化学観測:東アジア全球観測拠点としての富士山の活用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大河内 博
(連携研究者) 理工学術院 助手 緒方裕子
研究成果概要
1.はじめに 
 全球大気観測拠点としての富士山の有効性を検証するため,自由対流圏高度に位置する富士山頂で以下の大気化学観測を行い,以下の3点を明らかにすることを目的とした。
①日本上空自由対流圏における気相,固相(エアロゾル),水相(雲水)中化学種のバックグランド大気濃度を明らかにする.
②日本上空自由対流圏における夏季バックグランド汚染機構を明らかにする.具体的には,越境汚染と日中の谷風による局地的・地域的汚染の影響評価を行う.
③雲を介した化学的変質過程が自由対流圏大気質に及ぼす影響を解明する.
 上記目的を達成するために、本年度はPILSを借用(東大海洋研から借用)してガス状・粒子状酸性物質の高時間分解能観測を行い,フィル-パック法およびウェットデニューダー法(徳島大)との比較を行った。また、ポータブルGCMS TRIDION-9(エス・ディ・ジャパンから借用)を借用して大気中VOCsの高時間分解能観測を行い,熱脱離法と比較について検討した。

2.観測期間・観測地点・観測項目
 自由対流圏高度に位置する富士山頂の旧富士山測候所は夏季しか利用できないため、2013年7月と8月に集中観測を行った。とくに、2013年7月18日から8月22日までは旧富士山測候所に泊まりこんで、エアロゾル(水溶性成分,多環芳香族炭化水素,フミン様物質,球状炭化粒子,黄砂),ガス(酸性ガス、揮発性有機化合物),雲水,雨水の観測を行い,日本上空のバックグランド濃度の測定を行った.さらに,ウェットデニューダーを用いて富士山頂および富士山南東麓太郎坊における酸性ガス(塩化水素,亜硝酸,硝酸,二酸化硫黄)の連続観測を行うとともに,PILSを用いた粒子状物質の連続モニタリングを富士山頂で行った。

3.観測結果
 本研究により、以下のことが明らかになった。 
①空気塊の流入経路と雲水内化学成分との関係を調べたところ,中国北部および南部からの空気塊のときにHg, Cd,Pb,As,SO42-が高濃度であった。
②8月18日夕方に桜島最大規模の噴火があり,この空気塊が8月21日早朝に富士山頂に到達したが,このときにはHg,Pb,As,H+,SO42-が高濃度であった。大気中SO2濃度はフィルターパック法で計測したが,桜島噴煙到達時に高濃度であり、フィルターパック法で計測した塩化水素濃度も高いことから桜島噴火プリュームが富士山頂に渡到達していることを明らかにした。また,このときに発生した雲水は噴煙由来のH2SO4により酸性化していた。このように、桜島噴煙の影響により,雲水の酸性化が生じることを実証したのは本研究が初めてである。
③フィルターパック法は6時間毎の採取であるため時間分解能が悪いものの,首都大学東京・加藤准教授による自動モニターの計測値,PILSを用いたSO2とSO42-の総和(PILS(SO2+SO42-))と同様な挙動を示し,濃度レベルも比較的一致することが分かった。
④ポータブルGCMS TRIDION-9(エス・ディ・ジャパンから借用)を富士山で使用する前に予備観測を本学51号館屋上で行った結果から、富士山頂でVOCs観測を行うには感度が不足していることが分かった。そこで、富士山麓で大気中VOCsの高時間分解能観測を試みたが、ほとんどVOCsを検出することができなかった。