表題番号:2013B-101 日付:2014/04/07
研究課題ナノスケール立体形状半導体への不純物導入プロセスのリアルタイムSTM観察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 渡邉 孝信
研究成果概要
立体型Siデバイスへの高精度な不純物導入のための基礎研究として、3次元加工したSi基板表面へのイオン導入プロセスを、原子スケールかつリアルタイムで観察するための準備を進めた。2011年の震災以降、走査型トンネル顕微鏡・イオン銃複合装置(STM/IG)の性能が劣化していたため、除振台、コンプレッサー、リークバルブ、探針粗動機構のモータ部、トンネル電流検出回路の修理・交換を行った。さらに、二次電子検出によるイオンビーム照準機構を立ち上げ、装置性能を向上させた。
 このSTM/IG装置を用いて実施したNiイオン照射実験の解析を進め、その成果を国際学会(ACSIN-12)で口頭発表した。イオン照射により生じた欠陥周縁部から優先的にNi原子が析出することを明らかにし、欠陥周縁部の格子空孔とNi原子が強く作用することを確認した。
STM/IG装置の実験と並行して、トップダウンプロセスでSOI基板上に形成したSiナノワイヤ(SiNW)のNiシリサイド化実験にも取り組んだ。Niの侵入速度がSiNW形成条件にのどのように依存するかを明らかにするため、不純物濃度依存性と熱履歴依存性を調査した。その結果、Niの侵入速度は不純物濃度にはほとんどせず、熱履歴の異なるプロセスで顕著な差が見られた。イオン注入および活性化アニールをSiNW形成前に行った試料の方が、Niの侵入速度が明らかに大きく、SiNW中に生じた酸化誘起歪みの強度が熱履歴の違いが原因と考察した。この実験から、SiNWのNiシリサイド形成を精密に制御するためには、SiNWの残留歪の制御が重要であることが判明した。
 上記の実験を踏まえ、Niシリサイド化反応のSi格子歪依存性を再現する分子動力学シミュレーションの準備にも着手した。酸化膜誘起歪を帯びたSiNWのモデリングを実施し、界面付近の歪がフォノン分散関係に及ぼす影響を分子動力学シミュレーションで調査し、その結果をECS Journal of Solid State Science and Technology誌で発表した。
 本特定課題で取り組んだ研究は、2014年度文部科学省科学研究費補助金「挑戦的萌芽研究」に採択された課題の中で、発展的に継続していく予定である。