表題番号:2013B-100 日付:2014/03/06
研究課題ナノ加工を用いた局所神経回路の構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 谷井 孝至
(連携研究者) 高等研究所 助教 山本英明
研究成果概要
 脳の機能素子である神経細胞は、シナプス結合によってネットワークを形成し、シグナルの伝達/処理を行う。脳は外部刺激を受けていない状態でも活動しているが、例えばその情報処理中枢である大脳皮質における自発的神経活動は、ランダムではなく、巨視的に視るとある特定の順番とタイミングをもっている。この自発活動は興奮性/抑制性神経細胞からなる再帰的ネットワークから生み出され、機能的には、例えば将来の入力への期待を表現するための内部モデルを脳内に造り出していると考えられている。したがって、脳機能の神経基盤を探求する上で、自発的神経活動の発生機序を明らかにすることは重要である。そこで我々は、半導体微細加工技術を用いて培養神経回路の素子数を外因的に制御し、その微小神経回路内の神経細胞の自発活動を観察することで、神経回路内で自発活動が起こるために必要な細胞数や、自発活動の発生における抑制性神経細胞の役割を調べた。
 Poly (ethylene glycol) (PEG) silane(細胞接着阻害領域)、Poly-D-Lysine(PDL; 細胞接着可能領域)から成るPDL / PEGのパターン(200µm×200 µm; 500 µm×500 µm; 1000 µm×1000 µm)をガラス基板上に作製した。この基板上に胎生18日のラット胎児大脳皮質神経細胞を播種し、グリア細胞と共培養することにより、パターン内に神経回路を構築させた。培養開始から10-11日目において、構築した神経回路で起こる自発活動を、蛍光色素Fluo-4を用いたCa2+イメージングによって計測した。また、NeuN(神経細胞マーカー)とGABA(抑制性神経細胞マーカー)の共染色により、神経回路を構成する抑制性細胞の割合を評価した。
 マイクロパターン基板上に培養神経細胞をパターニングし、Ca2+イメージングによって神経回路の自発活動を計測することに成功した。寸法の異なるパターン上の神経回路の活動を比較したところ、神経回路の大きさが増加するとともに自発的バースト活動の頻度が増加することが分かった。また、たかだか十数個の細胞からなる神経回路でも自発活動が発生することを確認することができた。これは、従来考えられていたよりもはるかに少ない数の素子数からなる神経回路であっても、cell assemblyとしての機能を持ちうることを示唆している。