表題番号:2013B-099 日付:2014/03/06
研究課題がん細胞および神経細胞内応答解析のための表面ナノ加工基板の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 谷井 孝至
(連携研究者) 高等研究所 助教 山本英明
研究成果概要
 細胞培養液中で基板表面の細胞親和性を局所的に改質することにより,接着細胞の伸展面積や遊走方向,さらには神経細胞の突起伸長経路を制御することができる.私たちはこれまでに,酸化チタン(TiO2)の光触媒作用を活用して,TiO2表面の細胞接着阻害膜を培養液中において分解除去し,そこにコラーゲンなどの足場タンパク質を物理吸着させることで,基板表面の細胞親和性を局
所的に改質でき,細胞の液中パターニングに応用できることを示してきた.しかしながら,初代神経細胞などの接着力の弱い細胞への応用を試みたところ,物理吸着した足場タンパク質の安定性が不十分で,神経細胞を接着させることができなかった.そこで, TiO2に高い親和性を示すタンパク質をリンカーとして用いることで,初代神経細胞の接着を支持するラミニンを被改質領域に安定に固定し,さらにその領域に初代神経細胞を選択的に接着させることを試みた.
 スライドガラス表面にTiO2膜をスパッタ法により成膜した.細胞接着阻害膜にはオクタデシルシラン単分子膜 (OTS SAM)を用い,表面を改質する直前に,基板を血清入り培地に一晩浸漬した.リンカータンパク質とラミニンが複合体を形成し,さらにこの複合体がTiO2上に吸着することは免疫沈降法により確認した.細胞はラット海馬神経細胞を用い,Neurobasal培地で培養した.
リンカータンパク質を介してラミニンを結合させたTiO2基板表面上では,培養開始から2週間以上に渡ってラット海馬神経細胞が安定に成長した.また,OTS SAM/TiO2に対して蛍光顕微鏡の光学系で集光した紫外光を照射したところ,ラミニンは光改質した領域に選択的に吸着し,神経細胞を改質領域上にパターニングすることができた.未照射領域への非特異的な細胞接着はほとんど確認されなかった.リンカータンパク質を用いてラミニンが安定にパターニングできるようになったことは,TiO2の光触媒能を活用した液中表面改質技術が初
代神経細胞にも応用できることを意味する.