表題番号:2013B-065 日付:2014/03/17
研究課題ヨーロッパ近代文学・芸術のメランコリーの表象とそのポテンシャルの研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 准教授 丸川 誠司
研究成果概要
本年度は研究の準備段階で、まずは基本知識の確認と整理を夏期に行い、その後、冬期に短期間の海外調査を行った。夏期の最初は古典のパノフスキー、クリバンスキーの「土星とメランコリー」を再読し、アリストテレス著とされるメランコリーと天才を巡るテキストの内容の確認から始めた。同じく古代ギリシャにかかわるスタロビンスキーの「デモクリトスの笑い」及び「三つの激情」を読んで問題点を拾い上げ、古代ギリシャのメランコリーの思想の研究をまず開始した。この点ではJ. ピジョーの文献にまだあたる必要がある(その「メランコリー」はまだ途中である)。理論的な文献では、同時にテレンバッハ(の言う「メランコリー」は現代の「鬱」に極めて近い)とマルディネ等、精神病理学の文献にもあたり始めた。美術の分野では、前述の「土星とメランコリー」で大きく扱われているデューラーについて、比較的最近のマルディネによる「デューラー(のメレンコリアへのオマージュ)」を読み、この絵画の意味を再考する手がかりをつかみかけている。アリストテレス以降のメランコリーと天才を結びつける伝統をルネサンス期に受け継いだフィチーノと同時代に現れ、ゴシック中世とルネサンスの新たな人文主義が重なり合う時代、「近代」を前にメレンコリアの表現に重要な意味を見いだした芸術家と、それを辿る美術史家の系譜を捉え直す必要を確認した。また、この点では、冬期の出張で、とりわけミュンヘンでデューラーの「四人の使徒」を初め関連する作品を検討した他、ロンドン、コートールド・インスティテュートのA. ヴァールブルクとデューラーを巡る展示会(及び図書館)で収穫があったと言える。出張ではこれ以外にミラノで(デューラーに影響を与えた)マンテニャの「悲嘆の聖母」を見た他、数カ所の図書館(特にコートールド・インスティテュート)で関連文献、資料の探索にあたった。ここまではまだ、既になされたことを確認し、論文材料となるものの収集課程である。今後、これらの材料をより自分の土俵に近づけて、現代的な文脈でメランコリーの問題系を再検討し、論文執筆を準備しなければならない。