表題番号:2013B-064 日付:2014/04/02
研究課題ソ連体制の受容と抵抗に関する実証的研究:後スターリン期のエストニアを事例として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 准教授 小森 宏美
研究成果概要
 本研究は、後スターリン期のエストニアの歴史家を取り上げ、同期の社会について実証的に明らかにしようとする試みである。近年、ソ連全体を見れば、エゴ・ドキュメントを利用した、後スターリン期の研究が多数発表されているが、エストニアをはじめとするバルト三国については、関心の方向性がやや異なっているため、他の旧ソ連諸国と比べ、この分野での研究蓄積は多くはない。それは、当然のことながら現時点でのソ連時代に関する認識の差に起因するが、エストニア社会の中を見ても、そうした認識の亀裂は存在している。そうした中で、本研究では、歴史家という、ある種の公共の歴史認識構築に一定以上の役割を果たすアクターに焦点を合わせている。それは、エストニアでは、ソ連時代の歴史叙述を等閑視する傾向があると考えるからである。後で述べるように、ソ連時代の歴史家も、共産党の歴史認識に常に唯々諾々と従っていたわけではない。
 本特定課題の下では、以下を行った。
〔資料調査・収集〕
・現地にて、対象となる歴史家(ユリ・アント、オラフ・クーリ、トーマス・カリヤハルム、エア・ヤンセンら)の著作に関し、ソ連時代に出版されたものも含めて調査を行い、購入可能なものは購入した。
・現地公文書館にて、対象となる歴史家に関する史料を閲覧した(具体的には、ユダヤ人歴史家で、両大戦間期に修士号を取得し、後に、いったんは更迭されるもエストニアのソ連史学ではエストニア共産党史の専門家として復権したアベ・リープマン)。
〔研究打ち合わせ〕
・現地にて、公文書館のタチアナ・ショール研究員と意見交換を行った。
・現地にて、社会学部研究員のエネ・セラルトと意見交換を行った。
〔国内での研究〕
・本研究では、社会における歴史認識の構築過程ならびにその共有範囲も関心の対象になっている。そのため、これまでに収集済みの歴史小説や回想録等について整理を行った。
〔成果〕
 本特定課題では、研究をさらに進めるための予備的な結論をもって、成果としたい。その予備的な結論は次の通りである、すなわち、ソ連全体を見れば、スターリン期と比較して後スターリン期は社会に対する規制が緩和された、換言すれば規律が緩んだ時代であったとされる。エストニアにおいてもそうした特徴は見られるが、歴史教育、歴史叙述に関しては、むしろ画一化、統合の中により深く組み込まれた可能性がある。そうした中でも、歴史家は、場やテーマによって対応を変えることによって抗い、必ずしも共産党の歴史観に従った叙述のみを行っていたわけではない。