表題番号:2013B-061 日付:2014/04/11
研究課題平安時代を中心とする仮名日記の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 福家 俊幸
研究成果概要
 平安時代の仮名日記は、個々の作品の自立性が強く、作品相互の影響関係が認定しがたいという指摘がある。つまり、日記文学史のようなものが成立しにくいということである。ここには、物語と異なり、作者の個別の生に立脚さざるを得ない日記文学の問題も影を落としているのだろう。
 しかし、平安時代の仮名日記は読者を前提に書かれ、サロンの中で享受されていた。おのずから個別の生を超えた、享受者との関係において、記しとどめられた部分が指摘できる。書き手の問題に解消しきれない問題が存しているのであり、そのような享受関係の中で仮名日記の新しい読み込みが可能になると思われる。本研究では主として『更級日記』を中心に享受という側面から、新たな読み直しを行った。具体的には『更級日記』の注釈作業を遂行した。すでに八割程度完成し、更に考究を重ねているところである。この『日記』を祐子内親王家サロンとの関係で捉え直すことで、晩年の孤独の告白とする定見に疑義を挟んだ。祐子内親王家サロンは頼通の後見もあった文学サロンであり、孝標女が物語作家であった蓋然性が高いことと併せて、『更級日記』の従来の見方に納得しがたい点が残るように思われる。特に上洛の記は孝標女が宮仕えに上がった頃の独立していた作品であり、晩年の著作とする定見とは異なる見解を抱くに到っている。2014年度中に公刊する予定である。
 また本研究では、仮名日記の書誌、本文を再考すべく、国文学研究資料館蔵阿波国文庫蜻蛉日記を考察した。その成果は、2014年3月に公刊された影印本の解説に結実している。阿波国文庫本は現在、桂宮本蜻蛉日記に次ぐ、古本系の重要な本としての位置を占めているが、かつて山田清市氏は桂宮本よりも優れていると認定していた。さらに、阿波国文庫本の価値を高からしめているのは、その傍注、書き入れである。。解説では、書き入れについても細かく言及し、その書き入れが江戸時代の碩学屋代弘賢周辺でなされたこと、
また『蜻蛉日記草稿』と密接な関係を持っていることを、先行研究を整理しつつ述べつつ、阿波国文庫本の今日的価値について多角的に論じた。