表題番号:2013B-058 日付:2014/04/02
研究課題コロナ定理とDirichlet級数
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 田中 純一
研究成果概要
多重円板上のコロナ問題は多変数解析関数論における著名な問題である.ここでは一つの試みとして,次元を2次元(bidisc)に限定し,テンソル積からつくられる関数環の極大イデアル空間の構造との比較での検証を試みた.より具体的には以下のとおりである:

B(D^2)を2次元多重円盤D^2上で有界な解析関数の作る関数環とする.この極大イデアル空間 M(B(D^2))でD^2が稠密か否かを問うのがコロナ問題である.一方単位円 D上の有界な解析関数の作る関数環 B(D)がコロナ定理を満たすことはCarlesonの定理としてよく知られている.したがって二つのB(D)のテンソル積 B(D)(x)B(D)ではコロナ定理が自動的に成立してくる.すなわちB(D)(x)B(D)の極大イデアル空間 M(B(D)(x)B(D))においてD^2は稠密となっている.一方 B(D)(x)B(D)はB(D^2)でかなり大きな部分環をなすことから,M(B(D^2))の要素をB(D)(x)B(D)へ制限して得られるhomomorphismを M(B(D)(x)B(D))の性質を利用しM(B(D^2))の構造を調べてみた.かなり複雑で相当の手数を要するがいくつかの結果を得た.

(1)制限したhomomophism が M(B(D)(x)B(D))の nontrivial Gleason partに含まれるならHoffmanの定理が適用できそれ
自身D^2の閉包内にあること,

(2)Bishopによる Choquet境界の特徴付からその閉包であるSilov境界の各点がD^2の閉包内にあること,


などである.しかし極大イデアル空間 M(B(D^2))の構造はかなり複雑で現在も鋭意考察中である.多重円板上のコロナ問題は解析的なDirichlet級数の集積値集合と強く関連している.上記の結果を利用すると2つの独立な特性関数 exp{ist}から生成されるDirichlet級数の無限遠点付近での挙動がある程度理解できる.この方向での研究は解析数論との関連で興味深いと思う.