表題番号:2013B-057 日付:2014/03/29
研究課題放物-双曲型方程式とその確率微分方程式のエントロピー解の構造研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 小林 和夫
研究成果概要
乗法的確率項をもつ非線形保存型偏微分方程式の解の一意性と存在について研究を行い,それについて次の結果を得た。Dをd次元空間R^dの滑らかな境界∂Ωをもつ有界な領域とする。(Ω,F,{F_t},P)をフィルター付き確率空間とする。このとき,次の確率保存型偏微分方程式に対する初期値・境界値問題を考える。

   du + div(A(u))dt = Φ(u)dW(t) in (0,T)×D,
   u(0,・) = u_0 on D,
   u=u_b on (0,T)×∂Ω,

ここで、A:R→R^d はC^1級関数,W(t)は柱状ブラウン運動:W(t) = ∑β(t)_k・e_k, である。ただし,{e_k}はあるヒルベルト空間Hの完全正規直交系とする。Φ(u): H→L^2(D) は Φ(u)e_k = g_k(u)・e_k によって与えられている。これらに対して次の仮定をおく。|A´(ξ) - A´(η)|≦C(1 +|ξ|^(p-1) + |η|^(p-1))|ξ-η|, G^2(x,ξ) =∑|g_k(x,ξ)|^2 ≦C(1+|ξ|^2),
∑|g_k(x,ξ) -g_k(y,η)|^2 ≦C(|x-y|^2 +|ξ-η|h(|ξ-η|), ここで,hは非減少連続関数でh(0)=0なるものとする。われわれが考察する解は次のような(一般化された)kinetic 解である。u:Ω×[0,T]×D→R がkinetic解であるとは次の(i)-(iii)が成り立つこと定義する。(i) uは可予測である。(ii) 各p≧1に対して,定数C_pが存在してu(t)のL^p(Ω×D)ノルムがC_pで上からおさえられる。 (iii) f = χ_{u>ξ}, g=1 - fとするとき,(0,T)×D×R上のkinetic 測度m と各h < kに対して(0,T)×∂Ω×(h,k)上の非負関数 m^bとn^bでm^b(k=n^b(h)=0なるものが存在して, [0,T]×R^d×(h,k)の中にコンパクト台をもつすべてのテスト関数φに対して,

∫f(∂_t + A´・∇)φ + ∫f^0φ M∫f^bφ
=- ∑∫(∫g_k(x,u)φ(x,t,u)dxdβ_k(t) - (1/2)∫∂_ξφ(x,t,u)G^2(x,u) + ∫∂_ξφdm + ∫∂_ξm^b

が成り立つ。さらに,gについても同様な等式が成り立つ。
このとき,次の定理を得た。
[一意性定理] uとvがそれぞれ初期値,境界値(u_0, u_b)と(v_0,v_b)に対応するkinetic解とすると,u-vのL^1ノルムはu_0 - v_0のL^1ノノルムとu_b - v_b のL^1ノルムの定数倍の和で上からおさえられる。
[存在定理] Aと初期値・境界値データに対してある条件を仮定すれば,kinetic解が存在する。