表題番号:2013B-051 日付:2014/04/11
研究課題地理教育の系統化のための基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 池 俊介
研究成果概要
本研究は、日本における系統的な地理教育カリキュラム構築の基礎的作業として、ポルトガルの初等・中等教育段階における地理教育の特質を明らかにすることを目的としているが、今年度はとくにポルトガルの基礎教育(日本の小・中学校に相当する9年間の義務教育)のナショナル・カリキュラム(Curriculo Nacional do Ensino Basico)の最大の特色である「必要とされる能力」の内容について検討した。ポルトガルの基礎教育のうち地理教育に関する教科・科目は、基礎教育第1期(後半)の「環境科」、第2期の「地理歴史科」、第3期「地理科」であるが、地理教育に関する「必要とされる能力」(地理的能力)は第3期の「地理科」にとどまらず、基礎教育全体を通じて育成されるべき能力として体系的に示されている。ポルトガルでは、従来の知識重視の教育から能力重視の教育への転換が1990年代から検討され始めたが、現職教員や関連学会等による内容の検討・修正を経て、各教科・科目で育成されるべき能力の全体像が初めて示されたのが2001年に発表されたナショナル・カリキュラムであった。このナショナル・カリキュラムの「地理」では、探究活動と結びついた諸能力の育成が目指され、観察、計測、情報処理、仮説の設定、討論、結論の導出、表現等の学習能力の育成が重視されている。これらの地理的能力は、「位置」「場所や地域に関する知識」「空間の相互関係のダイナミズム」の3つの領域ごとにまとめられ、1~3期それぞれについて具体的な形で示されている。しかも、これらの地理的能力を子どもの発達段階に応じて各期で繰り返し取り上げることにより、子どもに当該の能力が確実に身に付くよう配慮されている。また、ナショナル・カリキュラムには、全体で目指すべき一般的な「必要とされる能力」も示されているが、こうした一般的能力の育成に地理的能力がいなかる形で貢献しうるのか、という点についても説明されている。例えば、「地理的現象の分布を考察したり説明したりするための空間的表現の技術の適切な利用」や「人間と環境との相互作用の結果としての地理的空間の差異の認識」は、一般的能力の育成にも結び付くものとされており、地理教育で育成する能力が市民的資質の育成に不可欠である点が強調されている。以上のように、ナショナル・カリキュラムは、①発達段階に応じて育成すべき地理的能力が体系的かつ具体的に示されている点、②市民的資質の育成につながる基礎的な能力として地理的能力が明確に位置づけられている点、などに大きな特徴がある。これらの点は、日本の今後の地理教育の改善を図るうえで大いに参考になるものと思われる。