表題番号:2013B-043 日付:2014/04/10
研究課題旧石器集団の遊動領域論 ー関東地方河川の河床礫組成と石材消費ー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 長崎 潤一
研究成果概要
本研究では関東地方の河川上中流域河床での礫調査と旧石器遺跡出土石器の石材調査を行い、それを関連させることで旧石器集団の遊動領域を明らかに知ることを目的としている。河川河床礫の調査について、自然地理学分野では実施されることがあるが、考古学からの実施例はきわめて稀であり、研究の蓄積が無い。本研究ではそうした河床礫調査の手法を開発することが第一の課題となった。2種の現地調査を実施した。
 ①1m四方の枠を突っ張り棒を4本用いて設定し、その範囲をデジタルカメラで撮影した。一つの調査地点で複数箇所(5~10箇所)の1m四方枠を設定して撮影を行った。これは河川の礫運搬力をみるための調査であり、石材については考慮しなかった。研究室に戻り写真から1m四方の中に写っている礫の個々の礫径を算出した。
 ②10m四方の枠をエスロンテープで河床に設定し、その範囲内を歩いて肉眼で石器利用石材礫を探した。ホルンフェルス、安山岩、頁岩、チャートなど剥片石器に使用できる石材に限定した。またチャートでも節理が多くすぐに割れてしまうような石質のものは除外し、あくまで石器石材として適する礫を採取した。見つかった石器利用可能礫の石種、礫形状、礫径、重量などを記録し、礫の撮影も行う。こうした調査箇所をひとつの河床で複数個所(5~10箇所)設定した。
 調査地点は多摩川(府中市、日野市、青梅市)、利根川(渋川市)、永野川(栃木市)、鬼怒川(上三川町)である。多摩川、鬼怒川などでは10m四方の調査枠内に石器利用可能礫が1点も含まれない場合も多かった。
 調査①では各河川とも概ね河口からの距離と平均礫径とは反比例する傾向が認められた。複数地点での調査をしなかった河川もあるため一概には言えないが、地理学での知見と矛盾しない。問題は調査②であった。河床に10m四方の調査箇所を設定しても、1点の石器石材も得られず、次々と調査箇所を設定することになった。1点の石材を得るために1時間以上かかることもしばしばであった。つまり石器利用石材の分布が希薄で、石材採取地点としてはふさわしくなかったのかもしれない。旧石器集団の石材獲得効率をどの程度に考えるのかが大きな問題である。例えば多摩川府中市の採取地点は野川遺跡群などに近い(直線距離で5km)が、河床で5箇所以上の設定をしないと比較的良質な石器石材(ホルンフェルス・チャート)は得られなかった。500平米で1点の石器利用石材しか得られない場所で旧石器集団は石材採取を行ったのだろうか。
 本研究では遺跡出土の旧石器石材の大きさ(利用礫の推定礫径)の調査を行うことが出来なかった。遺跡出土石材の調査を行うことで、本研究の調査①、調査②で得られたデータが活用できると考えている。